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第62話

 コハクが秘密裏に計画している事と言えば、それはもう一つしかない。


 対界庭羅船特別部隊となる新旗楼の設立だ。この件はコハク、ユエル、そして彼女に色々指示を出した鴻仙しか把握していない。新旗楼というチーム名部分はまだ鴻仙は知らない可能性が高いが。


 極秘中の極秘情報である為に、リバーシから送られた諜報員であるカムリィでもそこまでは辿り着けていないようだ。何かしら動いていると勘繰られてはいるようだが。


「ちなみにだけれど、今回の評価対決における鴻仙の役割は、主に私のフォローね」


「フォロー?」


「そう。仮に計画が上手くいったとしても、協会に潜入しているであろうリバーシにバレてエンペル・ギアに報告されたら面倒なのよ。鴻仙はエンペル・ギア内でも顔が利く、この世界のナンバー2でしょ? 万が一そうなった時は鴻仙が出張るって訳」


 この時のコハクは直近であった鴻仙との会食時の会話を思い出していた。




『……という計画を立てているのだけれど……』


 その時の会食の際に、コハクは今回の評価対決で自分が何を企てているのかを全て鴻仙に相談していた。鴻仙は相も変わらず落ち着いた様子で彼女の話に耳を傾け、全て聞き終わってから感想を口にする。


『なるほど。集めるべきメンバーについて私は、リバーシもしくはリバーシと同レベルの來冥者と言ったな。もしもその計画が上手くいった場合、確かに条件を満たす事にはなる……ふむ……問題は無いだろう。しかし、その計画は危険なのではないかな?』


『と言うと?』


『異世界運用中に()()が起きてしまった場合、リバーシ関係者以外の者にとっては摩訶不思議な現象として映る事だろう。此度の評価対決における協会の各関係者にどう説明する気かね?』


 鴻仙の質問にコハクは即答してみせた。


『その点は安心して。司、ユエル、ムイ、ロア、そして私……この五人しかその瞬間を目撃できないように立ち回るから。その瞬間、そしてその光景を今言った五人以外の人物が目撃できない環境さえ作れたら、何も無かったのと同義よ。証拠も映像として残らないようにするし、問題は無いわね』


『ほお? まぁ優秀なコハク会長の発言だ。今は信じるとしよう。だが何が起こるか分からないのが現実と言うもの。もしも想定外の事実……具体例を挙げるとすればリバーシにバレてエンペル・ギアに報告された場合は私が出張るとしよう』


『え? で、でも……私に対する課題はそもそもバレない事前提じゃ……』


 いざと言う時は鴻仙がフォローしてくれそうな展開になったが、本当に彼に甘えて良いのだろうかと思ったコハクは素直に喜べずにいた。そんな彼女の心中を察した鴻仙は安心させるように微笑んでから自分の気持ちを伝える。


『はは。真面目だな、あなたは。確かに欲を言えばそんな事態に発展しない事がベストではあるが、こんな計画を思い付いたあなたの発想力、そしてそれを実行に移そうとする行動力を評価して、一度だけ協力してあげようと思ったのだ』


『そう……ありがとう。あなたが味方で本当に良かったわ』


『お礼を言う程じゃない。それに先程も言ったが、私の力を借りないのがベストだからな。……ああ、それともう一つ訊きたい事がある。此度の評価対決で、転生者とムイ&ロアの間に軋轢がある事に対して疑問を抱いた者があなたに質問してきた場合はどう言い訳する?』


 まさか正直に答える訳にもいかないのは鴻仙も理解している為、彼は初めからコハクの答えが言い訳に過ぎないものになる前提で質問をした。


『そういう人たちが対戦相手の主人公であっても動揺せずに手錠双璧の二人は最後まで異世界運用を続けられるかって所も見たい……って感じかしらね。関係者全員が思っているはずよ。手錠双璧が相手である以上、今回の対決で司とユエルペアに勝ち目は無いって。であれば、丁度良いハンデになるんじゃないかと思ってくれるんじゃないかしらね。……でもね。質問相手がカムリィだったら話は別よ』


『カムリィ? ……ああ、確か協会では総責任者の役職で、リバーシの人なのではないかとあなたが疑っている男か。それにしても、話は別とは? まさか正直に言うつもりなのか?』


『さすがにストレートには言わないわ。でも彼の中にある好奇心と探求心を煽りはする予定よ。私の目に狂いは無いと信じるなら、彼はリバーシの人……そうであるならばぜひとも仲間に加えたい逸材だからね』


『なるほど。大方、此度の評価対決の真の開催目的を当てられるなら当ててみろ……という挑戦を彼に与えるつもりなのだろう? リバーシメンバーでないと辿り着けない答えであるからな。彼の調査力を測れると同時に、本当にリバーシメンバーなのかを見極める事も可能な訳だ』


『そういう事!』


『ははっ……なるほどなるほど。こんなにもワクワクしたのは久し振りだ。評価対決がどんな結末を迎えるのか、そしてカムリィを仲間に引き入れられるのか……結果を楽しみにしているよ。その過程で私の協力が必要になったらいつでも言うと良い。可能な範囲で協力してあげよう』


『ありがとう!』




 そんなやり取りが鴻仙との間にあったなど知るはずもないカムリィは、自分が今まさにコハクの思い通りに動かされている事に気付かず一人納得した様子を見せていた。


「なるほど。鴻仙総監はもしもの時に備えてって感じですか。取り敢えず少しは自分の中の疑問が片付いたのですっきりはしました。簡単に言うと今回の異世界運用はコハク会長と鴻仙総監が前々から企てている何かの計画を進める為に行うって事ですか。で、その目的を達成する為には主人公をあいつらにしなきゃいけない、と」


「大体合ってるわ。ちなみに付け加えておくとラスボス役をあの四人にしたのにもちゃんとした理由があるのよ」


 これまでの話を整理すると彼女はダブルラスボスによる評価対決を私的目的として開催するつもりのようだ。自身の目的の為ならば牢政トップをも動かして成し遂げようとするその行動力と意志の強さは見習うべきポイントなのかも知れない。

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