第61話
思わず内面の感情が表に出そうになったカムリィだが、今目の前に居るのは転生協会の会長だ。こんな些細な事で苛立ちを見せる訳にはいかない。
カムリィはリバーシの一員としてスパイ活動を行っている身ではあるが、コハクの部下である事に変わりはないのだ。彼女のこういう性格には慣れていくしかないのである。
「はぁ……じゃあ別の質問します。多分ですけど今回の件、会長には協力者が居るでしょう? それは誰ですか? 主人公二人の情報を入手するにはその情報の提供者の存在が必要ですから。それともご自身で調査して辿り着いた事ですか?」
「彼らの関係性は知っていたと答えるのが正しいわね。でも今回の件に協力者が居るのも事実よ。そうね、名前くらいは別に良いか――『鴻仙』……その人物が私の協力者ね」
「……! まさか鴻仙総監とは。ここで牢政トップの名前を聞く事になるとは思いませんでしたよ」
コハクとカムリィが口にした鴻仙は、牢政の現トップの座に居る男性だ。
五大機関のトップという事は、事実上この世界の『偉い人ランキングトップ五』に入るという事になる。そんな大物中の大物が何故コハクに協力しているのか、カムリィは気になって仕方が無かった。
まさか界庭羅船問題の件で数年前からそもそも二人は協力関係にあったなど夢にも思っていないだろう。
「あなた程頭が良い人ならどうして鴻仙が私に協力してくれたのか分かるんじゃない?」
「それ、言われる側はかなりのプレッシャーなんですけど」
ここでコハクの考えている事を答えとして提示できなければ、期待外れだと思われてしまう。簡単に疑問には答えてくれなさそうなコハクを視界に入れながら、カムリィは必死に頭を働かせて思考を巡らせる。
「あなたでもプレッシャーとか感じるのね。それで? 私の予想だともうそれっぽい答えは見つけたんじゃないかしら」
「……。当たり前ですけど鴻仙総監には異世界運用自体に協力する理由は皆無です。それでも彼は今回の件に協力しているとあなたは言った。つまり先入観を抜きにして考えると、今回の評価対決には異世界運用以外の何か別目的があって、鴻仙総監はその計画の方に協力しているんじゃないかって思いますね」
そこまで言ったカムリィはやがてある事を思い出してニッと笑い、明らかに雰囲気が変わった。その変わり様はコハクへと伝わり、彼の事を好いている彼女は思わずドキッとしてしまった。
「ああ……なるほど。コハク会長、あなた時々鴻仙総監と会食してますよね? その時に彼と協力関係を結んだ……裏でこそこそ何をやっているかは知りませんが、今回のこれは秘密裏に動いてる何かと関係あるんじゃないんですか?」
「……」
カムリィの表情は確信に満ちていた。決して口に出す訳にはいかないがリバーシとして彼はコハクの身辺調査も頻繁に行っており、その甲斐あってか予想をするのに時間はそこまで掛かる事は無かった。
「ふふ」
やがてコハクは楽しそうに微笑み、閉じていた口を開いた。
「やっぱり気持ちの良いものね。優秀な部下を持つって。まぁ本音を言えば、たまにはポンコツな所を見せてくれると可愛いんだけれど」
「俺に可愛さ求めてどうするんです。ま、とにかく、正解って事ですね」
「ええ」
カムリィの言葉にコハクは小さく頷いた。この部分に関しては特に秘密にする理由はなく、自分が鴻仙から与えられた課題や、彼女の計画を進める為に何故今回の異世界運用を行うのか、その真意さえ知られなければ問題無しと彼女は考えているのだ。




