第59話
会議が終わり周囲の人が次々と挨拶し合いながら退出していく中、ユエルは興奮した様子で司と話していた。
その様子はまるで学校の放課後に教室で会話している男女のようだ。
「司くん、さっきの本当に即興で考えたんですか?」
「まぁそうですね。ラスボスと主人公がそれぞれ二人である事の価値を決めようとしている時に、僕あんまり意見とか出してなかったでしょう? あの時ずっと一人で考えていたんです」
「なるほど。でも凄いと思いますよ。シルベルスの世界観に沿った内容で、カムリィさんが指摘した改善点もクリアした新しい物語をすぐに思い付いたんですから」
司に対してキラキラとした眼差しを送るユエルは彼の貢献度の高さに感動しているようだ。ユエル含め全員で話し合ってもカムリィを納得させるアイディアが出なかった状況下で司一人の案が採用されたのである。
新人とは思えない活躍をした彼の姿に嬉しさが込み上げてきたのだろう。そんな無邪気に喜ぶユエルを見ていると司の方も自然と笑みがこぼれる。
「ありがとうございます。先輩も最初の方で災害の原因が主人公にあると疑われる展開にすれば良いんじゃないかってすぐにアイディアを出してくれたじゃないですか。あの瞬発力は尊敬しますよ」
「そ、そんな……偶然ですよ、偶然!」
ユエルは嬉し恥ずかしそうに目を逸らす。褒める事は慣れていても褒められる事は慣れていないようだ。
「おいお前ら。互いに褒め合ってる暇があんなら、取り敢えず一旦出て行って他でやってくんねぇか? いつまで経っても鍵が閉められねぇから」
苦笑しながらカムリィが二人へと近付く。どうやら他の会議参加者は全員が会議室を出て行き、残っているのはこの三人だけのようだ。
「あ、すみません……。司くん、帰りましょうか。カムリィさん、お疲れ様でした! 明日もよろしくお願いしますね」
「お先に失礼します、カムリィさん」
「おう。お疲れ。明日も頼むぜ。気を付けて帰れよ」
それを最後に司とユエルも会議室を後にし、カムリィだけが取り残された。先程までザワザワと騒がしかった会議室は音一つ発生しない静かな空間へと変わり、カムリィはどこか寂しさを覚える。
「……」
誰も居ない一人きりのこの空間でカムリィは業務用ノアを展開し、今回の主人公二人に改めて目を通す。そして小さく呟いた。
「それにしても……バレなくて良かったぜ」
カムリィは今回のダブル主人公の生前を知っている。そしてその中の一部情報は例え関係者であっても絶対に漏らすなと、とある人物から言われていた。
基本的に主人公の情報を一番早く知る事が可能なのは、その異世界運用を担当する総責任者である。そしてこの時彼ら主人公の行動パターンを把握したり予想しやすくする為にも、生前の情報の内不要と判断されたものは事前に切り捨てられる。
その取捨選択もカムリィの仕事の一つではあるのだが、今回に限ってはカムリィの意思とは無関係に一部の情報を伏せるようにと命令されているのだ。
一見いつも通りを装って振舞っていたカムリィだったが内心はバレないようにと神経を尖らせていた訳だ。その様子を悟らせないようにしていた点はさすが総責任者と言えるだろう。




