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第58話

 主人公はヒロインが行っている災害研究の被験者として物語の序盤から終盤まで協力してきた訳だが、その努力が最後の最後で実を結ぶ。司の話したストーリー展開には、これまでの軌跡が無駄では無かったと主人公たちに実感させる事もできる内容となっていた。


「つまりラスボスと戦う意味は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か。この手の話でよくある展開だが、主人公たちの話をロクに聞こうとしないラスボスを大人しくさせる為にぶつかり合うってやつだ」


「はい。どう、ですか? 新しいストーリーは」


「そうだな」


 司だけでなくユエルもドキドキしながらカムリィの評価と感想を待つ。


 一日目の会議終了まで残り十分程となり、恐らく司が長々と語った新ストーリーが本日の最後の案になるだろう。そう考えるとストーリーの骨組みが今日完成するか否かの命運を分ける瞬間だ。


 痛い程の静寂に包まれた中でカムリィは自分の中で答えを出したのか、閉ざしていた口を開き話し始めた。


「やっとスタートラインに立てたなって感じだ」


「……!」


 ニッと笑いながら言うカムリィを見て司は自分が合格を貰えた事を理解した。


「シルベルスのラスダンに棲む神……そして世界と神を救う為に奔走する一人の人間のコンビによるダブルラスボスか。主人公サイドは『災害を引き起こす者』と『災害を食い止められる者』で……ラスボスサイドは『世界を管理する者』と『世界と神を救おうとする者』……まさにシルベルスの物語を〆るに相応しい対戦カードだと思うぞ」


 カムリィに続きユエルも同様に感想を口にした。


「それってラスボスが二人じゃないと編み出せない展開ですよね。つまりカムリィさんが言っていた懸念点も解消できています……!」


 司が考えたストーリーではダブルラスボスである必要性と言うよりは、ラスボスが二人居るからこそ生まれる魅力を前面に出してきた具合だ。


 災害を引き起こせる主人公Aと災害を止める力を持つ主人公B。


 世界の管理者となるラスボスAと根っこの部分は主人公と同じ目的のラスボスB。


 幾度となく災害に立ち向かった者たちの物語らしいラストバトルである。これもまた一つの答えであるに違いない。


「庭園に棲む神なんだったらヘタに主人公に何度も接触するのは違和感バリバリだし、そうなると主人公にヒントを与えたり謎の人物として物語を彩る役目は、別の人物の方が良い……。少なくともそのストーリーであれば、ラスボスは一人でも良いんじゃないかとはならないな」


 そこまで語ったカムリィは現在時刻を確認してから全体を見渡す。


「取り敢えず今日の会議終了まで残り僅かだが、司が話した新しいストーリー内容に何か不満がある奴は居るか? 先に言っておくが……妥協や遠慮は絶対にすんなよ」


 後半の方をカムリィは強調した。こうでも言わないとカムリィが納得してそうだからとか、今日の会議がそろそろ終わりそうなこのタイミングで言うのは気が引けるとか、そのような理由で言い出さない人が出て来そうだからだ。


 だがそんな事を気にかける必要は無かったようだ。何故なら全員が納得のいく表情をしており、司のアイディアに満足している様子だったからだ。


 反対意見を持った人は居ない事を雰囲気と全員の表情から確信したカムリィは、会議一日目の終了の挨拶へと移った。


「居ねぇみたいだな。取り敢えず何とか大まかなストーリーの流れは再構築できたって感じか。明日はもっと細かい所を深堀りして、残った時間で敵と味方のあらゆる設定を決めるぞ。んじゃ、今日はここまで。みんな気を付けて帰れよ。お疲れぃ」


 こうして全体スケジュールで見たら多少の遅れは出ているものの、初日で決めておくべき必要最低限な事は無事決定したのであった。


 スケジュール調整をするのもカムリィの仕事の一つであり、彼にそこまでの焦りは見られていない事からまだまだ全然調整可能なレベルなのだろう。


 変にスケジュールの事を気にし過ぎるよりは、評価対決で手錠双璧と戦うのに相応しい世界を用意する方が遥かに大事だと考えたのだ。そして彼のその価値観は会議メンバー全員に自然と伝わり、今日の結果を生み出したのである。

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