第57話
「まず僕の正体から。僕の正体は原初の災流庭園の創造主です。この庭園はシルベルスの神様の住処にあたる場所です。そしてシルベルスを平和に保つのに必要な存在がユエル先輩ですね。一応僕はその神様に仕えている人間でもあります」
「わ、私ですか? でも私って今のシルベルスが酷い惨状になっている元凶なんですよね? 真逆な気が……」
これまでの話を整理するとユエルを倒せばシルベルスに平和が訪れ、ハッピーエンドになりそうではある。だが司の口振りから察するにそう単純な展開にはならなさそうだ。
「本来災害とは真逆の平和維持に必要な神様の立ち位置に居るのがユエル先輩です。ちなみに先輩の來冥者としての姿って羽衣纏ったファンタジックな見た目なので、僕よりも彼女の方が神様としてのポジションには相応しいと思ってます」
司は自分の來冥者としての姿を思い浮かべながら話した。彼が來冥力を解放した時の姿は陰陽師のような格好だ。羽衣の天女と陰陽師であれば確かに前者の方が神様っぽさはあるだろう。
「 (神様……! 初めてやる役だ……!) 」
異世界運用に関してはチャレンジ精神が強いユエルは、今まで経験した事の無い役を今回任せられる可能性が出て来た事にワクワクを隠し切れないでいた。
そんな中でカムリィは冷静に司の話を脳内で整理し、彼が思い描くストーリーがどのようなものかある程度考察する。
「……。なるほどな。最初はユエルもシルベルスに必要不可欠な存在ではあったが、何かアクシデントがあってシルベルスの管理が困難になっちまったって訳か。そんでユエルを『元の姿』に戻す為には主人公二人の力が必要で、司はその案内役って所だろ? ユエルに仕えているんだったら各国の災害を止める方法についても詳しいだろうしな」
「 (本当にこの人頭の回転早いな……) その通りです。そして今カムリィさんが言った元に戻す為の方法ですけど、庭園で主人公二人を生贄に捧げる事です」
司の発言により会議室に衝撃が走る。
異世界運用では何が何でも遵守しなければならない事が何個かあるが、その内の一つが主人公が死ぬストーリーにはしない事。アルカナ・ヘヴン以外の世界で死んだ者は更なる異世界転生はもちろん、死者蘇生も叶わないのだ。
死んだらそこで文字通り彼らの物語が物理的に終わる。異世界ライフを提供する転生協会ではそのような展開を御法度とするのは当然と言えるだろう。
アニメやゲーム、漫画では主人公が死ぬ事で世界や大切な人を救う展開も中には存在するが、このルールにより協会では自分を犠牲にする事でしか救えないものがあるというストーリーにする事をNGとしている。
司の言った生贄とはまさにそのようなストーリーである事が瞬時に予想でき、この場に居る全員が表情を曇らせた。
「つ、司くん! そういう展開ですけど、ウチでは禁止なんです。確かに主人公が最終的に犠牲になる展開は王道と言えば王道ですけど、でも……!」
ユエルは自分の教育不足を疑いつつも、不安げに司に聞く。司はユエルの気持ちを察したのか安心させるように笑顔で答えた。
「蒼の異世界運用の時に教わりましたね。大丈夫ですよ、忘れてませんから」
「そ、そうですか……。と言う事は生贄に捧げるって言うのは……あ! 司くんが演じるラスボスの頭の中ではその方法しか無いって事ですか? だから司くんは最終的に主人公たちの敵になると」
「はい。シルベルスの根本的な問題を解決するにはどうしても庭園に向かう必要がある訳ですけど、行ったら行ったで主人公たちを殺そうとする僕たちが最後の敵として立ちはだかるって展開です。ちなみに主人公は二人とも生贄になる必要は当然ありませんよ。ヒロイン役の少女が見つけますからね。そうしなくてもシルベルスを救える方法を」




