第55話
司はユエルの予想通りの展開を口にし、台本通りに上手く進めば主人公Aは悪漢たちから暴力を振るわれても決して能力は使わず身を守る事に全力を注ぐとの事。
そんな中主人公Aはとある人物に救われる事になる。その人物こそがもう一人の主人公Bである。
当然主人公Bがその近辺に居ないとその展開は訪れない為、誘導は必要ではあるが。
「主人公Bはこの時自身の能力についてはまだ気付いていません。ですが主人公Aが少女を助けた時のように、助けたい気持ち一本で悪漢たちに挑み難なく勝利します。二回目の登場時は敵の來冥力を調整すれば、その差で負ける事はありません。それと今回の主人公は二人とも生前は友達同士かつ職場も同じです。そんな二人が同じ異世界に転生したとなれば、絆は最初の段階でカンスト値になっていると言っても良いでしょう。主人公Bはまず間違いなく助けに向かうと思っています」
異世界運用では主人公の生前におけるステータスや性格も考慮してストーリーを考える事がほとんどだ。この性格だったら恐らくこう動くだろうという予想から台本は作られていく。
異世界転生しようともその人の性格が変わる事は無い。そして大体の主人公は生前の性格通りの思考回路の元で行動をしていくのだ。
慣れたラスボス役であれば主人公の行動パターンを完全に読み、完璧に台本通りの展開へと誘導する事が可能だろう。
司はまだその域に到達してはいないが、恐らく主人公AとBの序盤の出会いに関しては予想外の展開を見せる事は無いはずだ。これは司だけでなくユエルも同じ考えでいた。
だが主人公Aが身を守る為に能力を使用する展開も十分に考えられる。もしも能力を使用した時はどうなるのか。司はその点についても触れる。
「ちなみに主人公Aが能力を使ってしまった場合ですけど、正直以降の展開への影響は無いと言っても過言では無いです。何故ならここで重要なのは……」
「主人公Bが主人公Aを『助ける事』ではなくて、二人の主人公が『出会う事』だからですよね。結局違うのは敵を二人の主人公の内のどちらが倒すのかだけであって、二人が出会う事自体は変わらない……そうですよね?」
これまでラスボス役として様々な展開を考え、アドリブを大量に入れた演技をこなしてきたユエルは、司の言いたい事と注目すべきポイントを瞬時に理解したようだ。
「その通りです。災害に関係した相反する能力を持つ二人が出会った事で、物語は動き出します。この後主人公Bは主人公Aの悩みを知り、友達として何とかして解決してあげたい気持ちが働いて、とある少女に相談します。その少女こそ主人公Aが助けた少女……つまり今回のヒロイン役の女の子ですね」
「そこで繋がってくるんですね。どうしてその子に相談を……?」
「その少女が災害研究者だったからですよ。シルベルスの抱えている問題を解決する為に災害を研究する学者っていう設定です。最初こそ恐怖が先立って主人公Aを拒絶しましたけど、冷静になった彼女は一つの提案をします。もしも嫌じゃなかったら、自分の研究の被験者になってくれないかって。自分が役に立てるならと主人公Aはその提案を受け入れて主人公Bもその研究に協力するって感じでプロローグは幕を閉じます」
司のその発言でこの場に居た全員が思った。それならば確かにダブル主人公の意味があると。
相反する能力を二人に与えたところで、災害を操る主人公Aは正直要らないのではという空気が若干流れていたが、今はそう思う者は居なかった。
シルベルスにおける災害発生のメカニズムに関するヒントが、主人公Aに隠されているのではと興味を示したヒロインの存在により、一気に価値が高まったのである。
災害問題を解決する為の糸口を見つける上で重要な鍵を握る主人公A。災害を抑える方面で活躍する主人公B。まさにどちらが欠けても物語は成立せず、どちらにも主人公に相応しい役割が与えられている。
司とユエルが準備期間中に何度も話し合って作成したストーリーを書き換える必要性は発生しそうだが、確かにこれならばカムリィが言っていた懸念点をクリアしていそうだ。




