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第54話

 司は全員の期待の眼差しの中、緊張しながら意見を述べた。


「まず主人公には災害を発生させる力と抑える力の二つを付加能力として与える想定でいますけど、これを主人公Aには災害を発生させる方を、主人公Bには抑える方を、みたいに分けたいと思います」


 前提条件が覆るような発言に会議室がざわついた。


「お前ら、静かにしろ! ……司、続けてくれ」


 これまでとは違う風が吹きそうだと予感したのかカムリィはどこか楽しそうだ。口角を上げながら司に先を促す。


「はい。ある日主人公Aは悪漢に絡まれているヒロイン役の少女に助けを求められ正義感から助けに向かいますが、來冥力の差で負けてしまうんです。情けない気持ちで満たされながらも目の前の女の子を助けたい一心で、果敢に立ち向かった時に突如として災害を彷彿させる力が主人公Aを取り巻き、その力を使って彼女を助ける事に成功します。何が何だか分からないといった様子の主人公Aを見た少女は恐怖から拒絶してしまうんです。彼女たちが居るのは災害渦巻く世界『シルベルス』です。突然災害の力を自由に操り出す姿を目にすれば過剰反応を示すのが普通でしょう」


「お、おい。君たち二人が考えたストーリーと導入が全然違うじゃないか」


 一人の男性が司の発言に異議を唱えた。それもそのはずだ。シルベルス運用の異世界創生会議初日の終わりが近付いているこのタイミングで、導入からいきなり違う展開を示されれば動揺もするだろう。


 現に彼らは司とユエルが提出したストーリーをなるべく弄らないようにする事を意識しながら、アイディアを出し続けてきたのだ。


 主人公とラスボスが二人ずつ居る事の意味を持たせる為に話し合ってはきたが、根本的なストーリーは変えず、あくまでプラスアルファ程度だという暗黙の了解ができていた。


 その理由はただ一つ。時間は有限だからだ。


 バッファ日が数日程設けられているとは言え、決めなければいけない事はまだまだ山程ある。もしも導入からガラッとストーリー展開を変えるのであれば最悪今日の会議前半で確認した事のほとんどが無駄になる可能性があるのだ。


 絶対にダメだと怒られる温度感では無いが、思わず突っ込んでしまう位には不安な気持ちが押し寄せてくるのだろう。


「それについては確かに申し訳なく思ってます。でもこの導入を変えないと話が先に進まないので、今は我慢して聞いていただけませんか?」


「と、とにかく司くんの話を聞いてみましょうよ! もしかしたら凄い出来が良くて二日目の会議でちょっと続きやるだけで終わる可能性だってありますし」


「ああ。どのみち今司の意見を却下したら結局俺らが散々話した問題は解決しないまま会議の一日目が終わるんだ。どうせそうなるんだったら司が思い付いた新ストーリーに期待した方が良いんじゃないか」


 ユエルとカムリィのフォローにより男性はそれ以上司を咎める事はなく大人しくなる。


「二人ともありがとうございます。続きを話しますね」


 今の男性とのやり取りのおかげで、まずは彼の話を聞いてみようという空気で室内が統一された。以降は余程素っ頓狂な発言をしない限り突っ込みや質問は出てこないだろう。


 話しやすい空気になったところで司は安心してその先を話す。


「主人公Aに対して二度とその力を使うなってヒロイン役に言わせる事で、絶対に人前でこの能力は使用しないという気持ちを主人公Aに抱かせるんです。どんな事があってもこの世界で災害の力は見せない……そう誓ったのも束の間、少女に絡んでいた悪漢たちが復讐目的で主人公Aに襲い掛かります」


 ここでユエルは司が考えたシルベルスのストーリーの始まりを察した。


 どれだけ武装して主人公Aに報復を試みたとしても、付加能力を使えばその悪漢たちなど余裕で返り討ちにできるだろう。だがヒロイン役の少女に言われた言葉が主人公Aを縛り付け、能力を使う気が引ける可能性が高い。


 もしもそうなってしまえば主人公Aはされるがままになってしまうに違いない。

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