第52話
言いたい事は理解した司だが、それですぐに解決策となるアイディアが浮かぶかと言われれば話は別だ。
今回の大まかなストーリーも二人で何回も話し合って決めたものとなり、急に何か異なるイベント事を取り入れられないかと振られたところで即返答できるはずも無い。
「いきなり言われましても……んー……すぐには思い付きませんね。先輩は何か思い付きますか?」
「えっとですね……主人公は災害を一時的に抑えられるだけじゃなくて、引き起こす事もできる能力を今回は組み込みますよね。シルベルスで発生している災害は主人公が原因なんじゃないかと世界中から糾弾される展開とかどうでしょう」
「お」
ユエルのアイディアにカムリィは一言漏らし、面白そうに口角を上げる。
「先輩、それ良いじゃないですか! 主人公は自分で災害を引き起こしてそれを自分で解決する事で、英雄視される事を目的としているんじゃないかって疑われる流れとかどうです?」
「マッチポンプですね。長く解決しなかった災害問題を主人公たちが簡単に解決できるのは、それが理由だと誤解を加速させやすい展開ですし、良いかも……」
「今まで国を救う為に使用してきた能力が、思わぬ角度から自分たちを窮地に追い込む事になっちまう訳だな。良いと思うぞ。アイディアを即出せるとはさすがだな」
「……! えへへ」
カムリィも納得の展開にアイディアを出したユエルは嬉しそうだ。
「まぁその誤解がどのタイミングで発生してどう解決していくのかを決めていく必要はあるが、取り敢えず方向性は決まった訳だし……そうだな、先に二つ目の方も一旦の解決はしておくか」
「二つ目と言うと……今回の主人公とラスボスがそれぞれ二人ずつである必要性がほぼ無いって事でしたよね?」
司はシルベルスのストーリーを改めて脳内で振り返りつつ、確認をする。カムリィが口にした一つ目の問題点とは違い、二つ目の方は心当たりがあった。
まだまだ経験の浅い司でもそう感じたのだ。ユエルも間違いなくカムリィの言いたい事を瞬時に理解したに違いない。
「その通りだ。シルベルスのストーリーを思い返してみろ。このストーリー……ダブル主人公である必要があるか? そしてラスボスが二人居る必要があるか?」
「う。ま、まぁ言われてみれば確かにそうですね……」
司と二人で決めている最中にその事を指摘できなかった事、そして気付けなかった事が悔しいのか、ユエルはあからさまに肩を落とす。
今回が初めてのダブルラスボス運用という事もあって、いつもと勝手が違うと言えばそれまでだがそんなのただの言い訳に過ぎず、正直返す言葉も無かった。
「この話は主人公が一人……そしてラスボスも一人っつーいつもの俺らがする慣れ親しんだ異世界運用でも何の違和感も無いし、寧ろそっちの方が自然まである。物語を体験する主人公側からしたら当然そんな事気にもしないが、評価する側からしたら十人中九……いや、ヘタしたら全員が思うだろうよ。これダブル主人公とダブルラスボスにする必要はあるのかってな」
ストーリー作成者視点でもそう思うのだ。これまで数えきれないくらいの異世界とその運用に関わってきた評価者からすれば、確実に疑問を抱く事だろう。
そしてマイナス点の一つとして大きく勝敗に響いてくるはずだ。何せダブル主人公とダブルラスボスを前提とした異世界運用であるにも拘らず、その前提条件を守れていないようなストーリー展開となっているのだ。それだけで勝敗が決まってもおかしくは無い。
「うぅ……すみません。いつもと同じノリで考えちゃって、主人公とラスボスが二人居る意味を持たせるストーリーにするのを失念していました……」
「僕も同じく……すみません。確かに主人公とラスボスがそれぞれ二人居る事で魅力が生まれるような中身にしないといけませんよね」
「別に責めてる訳じゃねぇし、こういう運用は今回が初めてなんだ。んな気にする必要はねぇって。それよりもここからどうストーリーを改変していくか考える方が大切だ。基本的な世界観は今のままで良いから、後は主人公とラスボスがそれぞれ二人居る事の意味合いを持たせるだけで良い。この部分は一発ゲームオーバーの要素を含んだ、絶対にミスれねぇ所だ。慎重に決めていくぞ」




