第51話
会議に参加している人の視線が司とユエルに集中する。
このままで良いのか、それとももう少し練るべきか。先程カムリィも言ったように、勝利を目標にするかどうかがそのまま二者択一の答えになる訳であり、その決定権は二人にあるのだ。
ラスボス役の二人がどう思っているか。まさに運命の分かれ道とも言えるその疑問に、最初に答えたのは司だった。
「僕は勝ちたいと思ってます。なので具体的な問題点を教えて欲しいです!」
「わ、私も! 同じ気持ちです!」
司に続いてユエルも同じ回答を口にし、カムリィは満足そうに微笑んだ。
「おし! そうこなくちゃな! やっぱどうせ勝負すんなら勝たねぇと」
「そ、それでカムリィさん……どこを修正したら良くなりそうですか?」
ユエルの質問にカムリィは声を漏らしながら気になった点を頭の中で整理した。
その様子を見て司は思う。カムリィが今日の会議前半時にあまり口出しをしなかったのは、一旦最後までシルベルスの物語展開を聞いてから判断しようと考えていたからだと。そして今は情報がある程度出揃った事で、考えの整理が可能になった訳だ。
やがてその整理が終わったカムリィはユエルの質問に回答した。
「そうだな。取り敢えず二点ある。一つ……第一部における各国の展開が少々ワンパターンに感じる。二つ……今のストーリーではダブルラスボスとダブル主人公である必要性がほぼ無い。この二つを改善すればかなり良くなると思うぞ」
カムリィは概要だけをまず口にした。これだけを聞くと意外と根本的な部分が実はダメだったのかと思えてくる。これでも普段であれば通るのだからやはり普段と今回とでは見るべきポイントが違うのだろう。
「取り敢えず一個ずついくか。まず各国の展開についてだ」
「て、展開ってそんなにワンパターンでしょうか……?」
「ああ。確かにメインとなる五か国それぞれで解決すべき災害の種類も、それが発生している原因も、解決策も異なっていて一見よく練られている。けど、もっと単純な流れを見れば結局は毎回主人公が国を訪れ、能力使って束の間の安寧をもたらし、災害の発生原因を調査してそれを取り除く。やってる事は同じって感じだ」
カムリィの指摘にユエルも司も思わず黙り込み反論できずにいた。まさしくその通りであるからだ。
「とは言え、別にそれが悪いとは言わねぇ。今回の……と言うか、どんなストーリーでも根本的な各章の話の流れっつーのは基本同じになるもんだ。大切なのはその『同じ部分』に差別点を設ける事だからな。つまり今回で言うと災害の種類や解決へ導く為の過程を五か国分用意する事が重要って訳だ。その部分に関しては今ので文句ねぇ」
ここまで聞いて司とユエルは疑問に思う。それならばカムリィの言いたい事は一体何なのだろうかと。
そんな二人の疑問に思う気持ちは百も承知なのか、カムリィは訊かれるよりも先に二人の疑問に対する答えを述べた。
「俺が言いてぇのはそのお決まりの流れ以外にも何かイベントを取り入れて欲しいって事だ。具体的に言うと主人公が立ち向かうべき別の困難だな。国や世界を救うっつーメインとなる流れとは少し離れるが、それでも取り入れた方が良さそうなスパイス的な展開だ」
「ようするにカムリィさんの言いたい事は主要五か国で展開されるストーリーの基本的な展開自体に特に問題は無いけれど、それだけだとダメって事ですか?」
司なりに彼の話を別の言い方にして確認をする。
「そうだ。例えば仲間の一人が裏切るとか、死んじまってパーティから離脱するとか、主人公の能力使用による災害阻止の有効期間中に原因を特定できなかったとか、そういうのだな。他の国での展開とは一味違った味変が欲しいんだ」
確かにいくら各国の物語が違うとは言え、毎回毎回お決まりの流れしかしないのであれば、見ようによってはワンパターンに見えてしまうだろう。
カムリィはその部分に引っ掛かりを覚えたのだ。




