第5話
同時刻。
転生協会最上階にある協会上層部の個人部屋の一室に『彼ら』は居た。
「……」
「……」
話題の二名、ムイとロアだ。年齢は二人とも二十歳前後といったところだろう。
ムイは一七〇センチ後半で男性の平均身長よりも少し高めであり、ロアは一六〇センチ前半程と身長差が結構ある。
容姿だけで言えば真面目風の男性と遊んでいる系の女性という印象を与える、まさに対照的な構図だった。
ムイの方は整えられたナチュラルショートの黒髪にスーツ姿とピシッと決めているのに対し、ロアの方はミルクティーのような色をしたロングヘア、ピアス、開けられた胸元、短いスカートと校則違反てんこ盛りのような格好だ。
見ようによっては教師と学生のカップルみたいな組み合わせであった。最高のコンビどころか気すら合わなそうな二人なのだから、人は見かけによらないという言葉を体現した例である。
そんなムイとロアの視線の先にはニットワンピースに身を包んだ一人の女性が居た。その女性は大きなデスクに座っており、にこやかに微笑んでいる。
ミディアムボブの赤髪に長いまつ毛、綺麗な顔立ちは美しいという言葉を送るのに相応しいだろう。
琴葉よりも少し歳上くらいと思われるこの女性こそ、転生協会第五五代目会長『コハク・カンツィオーネ』である。こんなにも若い女性が会長としてトップになったのは協会の歴史を見ても史上初の事であり当時は大きな話題を呼んだ。
十代で会長の座に就き、数年間転生協会の代表としてその席に座り続けている。
「それで? 話って何かしら?」
コハクは両肘を机の上に付けて腕を立たせ、指を絡ませてからその上に顎を乗せて微笑む。会長としての圧や威厳は感じない。知らぬ人が見たら青春を謳歌している学生にしか見えないだろう。
どこかまだ子どもっぽさを残しつつも大人の女性の魅力も感じる不思議な雰囲気だ。
「今回の評価対決についてだ。俺とロアが選抜されたのは良いとして、何で対戦相手が司とユエルのコンビなんだ?」
ムイは一歩前に出てコハクを冷ややかな目で見ながら口を開く。
相手が転生協会会長であるにも関わらず高圧的な態度だ。だがコハクはムイの口調や態度について全く気にしている様子はなく、笑みを崩さない。
「やっぱりその話をしに来たのね」
彼らがわざわざ最上階まで足を運びコハクの部屋を訪れた理由を彼女は何となく予想していた。
基本的に他者との交流を拒み、いつも二人きりで行動している彼らは自分たちの方から他の人に接触する事は滅多に無い。もしあるとすれば自分たちに関わる重要な何かについて確認・意見がある時くらいだろう。
「聞いた話によるとあんたらしいな。俺たちの対戦相手を決めたのは」
ムイの声が少しだけ低くなり、目つきの鋭さも一段階増した。
戦闘開始一歩手前のようなピリッとした空気が流れる。許される事なら今すぐコハクに暴力を振るってでも問い詰めたいと彼は思っているのだろう。そうでなければこんな殺気にも似た空気は作れない。
「ええ。何か問題でも?」
高身長の男性から向けられる鋭い眼差しに一切の怯みなく、コハクは毅然とした態度でムイを正面から受け止めた。