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第49話

 主人公の付加能力のレベルまで自由に決められるのであれば、例えば各国で災害を一時的に抑えられる時間=その国のメインとなる災害の恒久対策を行うまでのタイムリミットに設定する事も可能になる。


「主人公の災害抑止能力の効果時間を一時的なものにするのは俺も賛成だ。理由は今司が言った通り、シルベルスを真の意味で平和にする為の手助けレベルにしておかねぇと物語がつまんねぇものになっちまうからな」


 カムリィだけでなくこの場に居た全員が同意見だった。不安要素であった災害に対するストレスもいくらか軽減できそうであり、主人公の能力は決定と言っても良いだろう。


 全員の気持ちが傾きかけた中、ユエルは更に傾ける為に今回のストーリーにおける主となる流れを説明した。主人公の能力が判明した今だからこそ司とユエルが考案した展開と上手く嚙み合っていると理解できるものになっている。


「あの。私から今回のストーリーでの基本的な流れを説明しますね。まず主人公たちが各国を訪れた時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のところまできている状態になっている必要があります。主人公は能力を駆使して一定期間災害を食い止める……でもその抑止可能な期間内に根本的な原因を取り除けなければ、災害は再び襲い掛かってその国は滅亡する。そういう展開にしようと思ってます」


 さすが会議には慣れているのか、説明時のユエルはいつもとは違って饒舌だ。


「その場合は何度も抑止に能力を使用できないように何かしらの制限は設ける必要はあるでしょうね。例えば特定の災害にしか能力は使えず、使用回数は一回のみとか」


 ユエルの説明に対して司が補足する。予め言われそうな事を先読みして発言したのだ。


「ああ。そういうのも含めて、どういう運用で展開するかをこれから話し合おうぜ」


「「はい!」」


 司とユエルは第一関門を無事に突破できた事を確信し、二人揃って嬉しそうに返事をした。場の流れや空気が明らかに変わったのを感じ取ったのだ。


 先程まであんなにもシルベルスの環境はストレス要因になり過ぎるのではと懸念する声があったが、今はもう誰もその意見を口にしていない。


 普段の異世界運用において主人公に付加能力を設定する事は絶対では無い。今回のように異世界運用の規模が大きい時や、主人公の生前の來冥力が最底辺レベルの時には、各関係者および総責任者の判断で設定する時がある程度だ。


 シルベルスの主人公は生前かなりの実力者だったらしいので、付加能力の設定に甘えた世界観の考案をする流れは本来は作りにくい。だが今回は初めてのダブルラスボスによる評価対決という特別かつ大規模な異世界運用だ。


 誰も口にしなかったが『今回は主人公に付加能力を与えても良いだろう』と心の中で納得していたに違いない。


「 (それにしても、やっぱり先輩が居ると心強いな……) 」


 司はユエルの方を見ながらそんな事を思った。すると視線に気付いたのかユエルも司の方を向き、目が合う。


「あ……えへへ。良かったですね、司くん! シルベルスの環境を認めてもらえて!」


「先輩のおかげじゃないですか。その世界で生き抜く為に必要不可欠な付加能力を主人公に与えてあげれば良いって教えてくれたのは先輩なので」


「でもシルベルスの世界観を考えたのは司くんでしょう? 二人で考えたからこそ良い形に仕上げられたんです。もっと自信持ってください!」


「そう言っていただけると僕もアイディアを出せて良かったって思いますよ」


 司がアイディアを出し、その結果発生する運用上の不安要素はユエルが知識と経験でカバーする。シルベルスはそのようにして生まれたのだ。


 一人だけでは誕生しなかった世界。そう考えると会議開始段階からシルベルスという世界は今回の評価対決に相応しい舞台なのかも知れない。

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