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第48話

 司の発言に一同が黙り込む。中には彼が何を言いたいのか理解した者も居るはずだ。


 主人公は転生前、即ち現世で生きていた時に來冥者であったかどうかを問わず空っぽの器のような状態になるのだが、転生協会はその器に『その異世界でしか使えない來冥力以外の能力』を主人公に与える事が可能となっている。


 付加能力という名称で知られるそれを異世界運用で取り入れる場合、この能力をどんなものにするのかも会議で話し合いをして決定していく流れだ。話し合うタイミングに関しては敵や仲間についての議論をする第二回の会議時に併せて行われる為、今日は本来議題にすら上がらない内容な訳だが。


「確かに今回の舞台は代表的な自然災害を五つ含んだ過酷な世界となっています。でも主人公に対策用の能力を与えてあげれば問題無いと考えています」


「具体的には? 能力の話し合いは今日では無いが聞かせてもらおうか」


 先程まで議論で反対意見を述べていた男性が即質問をする。主人公に災害対策用の能力を与える事で乗り切る事自体には反対しない所を見ると、その能力次第では問題無いと判断しているのだろう。


 もっとも、これまで数々の異世界運用を成功に導いてきたユエルから出た案なのだ。問題ありと判断されるはずも無い。


「災害を自由に操れる能力です。自分で引き起こす事もできれば、その場に発生している災害を一時的に抑える事もできる能力ですね」


「なるほど。災害をメインとした異世界の主人公らしい。災害を自由に引き起こせるなら、それをモチーフとした戦闘スタイルも確立できるだろうし戦闘面でも申し分無いな。何より一時的であっても災害を抑えられれば、その間は普通の環境が続き主人公たちに過度な負荷は掛からないという訳か」


 納得した男性を見たカムリィはここで一つの決断を下す。


「どうやら今日は特別に主人公の付加能力についても話し合った方が良さそうだな。主人公に付加能力を与える事含め、反対の奴は挙手しろ」


 彼の言葉に反対する者は一人も居なかった。予定を変更して会議内容の順番を変える事は別に珍しくも無い。


 異世界運用では九割九分が臨機応変な行動を要求されるが、異世界創生会議でもそれは同じなようだ。極論異世界運用開始予定日までに間に合えば良いのだから。


 第一回目ではこれを、第二回目ではこれを決定するといった会議の計画など、机上の計画に過ぎない。その場の空気と流れ次第では総責任者が会議内容を変更する必要がある。


 言ってしまえばこれもカムリィの仕事の内の一つだ。


 カムリィは全体を見渡し不満のある者はゼロである事を確認すると、満足そうに頷いた。


「おし。不満のある奴は居ねぇみたいだな。取り敢えず今回の異世界運用では、主人公に付加能力を設定する前提で以降の話は進めるぞ。んじゃあ早速で悪いが俺から質問と言うか、確認がある」


「何ですか?」


「主人公の災害を操る能力において、既に発生している自然的な災害を止める能力は一時的なものって言ってたよな? つまりシルベルスにおける主人公の存在意義は暫定対策を行える事。そして主人公たちが世界を巡る目的は恒久対策をする為。これに認識相違は無いか?」


 暫定対策とは問題事に対して根本的な原因を解決するまでに行う臨時的な対策であり、恒久対策とはその根本的な原因を取り除く解決策の事である。


 わざわざ主人公の能力レベルを『一時的』なものに落とした理由について、カムリィはもう答えが分かっているようだ。今の質問は答え合わせ感覚で行われたものなのだろう。


「無いですよ。もし主人公の能力を災害そのものを取り除けるレベルにしちゃったら、旅の目的が失われますからね。能力使ってハイ、解決……になっちゃいます」


「はは。ま、そうだよな」


 司の言う通り一時的に抑えるものではなく、二度と災害は発生しない系の能力であればその主人公が各国を巡って能力を使うだけで物語は終わる。正直仲間も敵も必要無い面白味に欠けるストーリーになる事は明白だ。


 だが一定時間抑えられる能力にする事でストーリーの展開のしやすさが格段に跳ね上がるだろう。


 調整の仕方次第で毒にも薬にもなる能力。それが付加能力だ。

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