第46話
司とユエルが会議室に入った時には既に関係者全員が揃っていた。まだ開始時刻前とは言え結構ギリギリな時間帯だったのだ。間に合いはしたが気持ち的には遅刻した気分だ。
「お疲れ様です! すみません、遅れました……」
ユエルは謝罪と共に入室する。
司はユエルを迎えに来た立場である為、この中で遅れてしまったのはユエル一人だけとなり、別に遅刻した訳では無いが申し訳無いと思ってしまったのだ。
だがそんな彼女を見て、恐らくは今回も司とユエルの異世界運用の総責任者として任命されたであろうカムリィが安心させるように言う。
「おー来たか。コハク会長と大事な話があったんだろ? なら仕方ねぇさ。それに、別に遅刻した訳じゃねぇし謝る必要なんてねぇって。ま、取り敢えず席に座んな」
「は、はい!」
ユエルは司と一緒に席へと座る。今回も蒼の時の異世界創生会議と同じく司とユエルの席は隣同士だった。ダブルラスボスという面からもこの配置は納得である。
「よーし。んじゃあ関係者全員が揃った所で……あー、まだ開始まで数分あんな。各自好きに時間過ごして良いぞ。俺は寝るから時間になったら誰か起こしてくれ」
冗談のように聞こえるが本気だったらしく、カムリィはイスに座ったまま腕組みをして仮眠を取り始めた。
これでいて彼は現役のリバーシメンバーかつ協会で総責任者も務める程に優秀な人なのだから驚きだ。
「まったくカムリィさんは自由人なんだから。いきなり自由に過ごせって言われても困っちゃいますよね? 先輩」
「あはは、そうですね。まぁでもノアを起動して資料を開く時間を貰えたと思えば、嬉しい話じゃないですか」
「確かに。今回はラスボス役が二人、主人公が二人の運用ですからね。僕も今の内に最終確認しておこうかな……」
ユエルを見習って司も仕事用ノアを起動し、今回の異世界運用に関する資料とデータに再度目を通す。
異世界名は『シルベルス』。災害渦巻く世界であり、猛吹雪や暴風雨、酷暑などの異なる過酷な環境が様々な国で広がっている地獄のような舞台だ。
主人公は各国で民を苦しめている様々な災害を打破し、平和をもたらす為に世界を旅するというストーリーになっている。国によってその天災内容は異なり、どうすれば食い止める事ができるのか――各国を訪れる度にその原因究明からスタートする事になる。
こういう時にありがちな話として、実はこれらの天災は自然的なものではなく人為的なものによって引き起こされていたというものがあるが、このシルベルスでもその展開が取られている。
今回のストーリーの設定上、最終的に司とユエルの二人を倒せば過酷な環境に苦しめられる事は無くなるというオチだ。ダブル主人公はシルベルスに安寧をもたらす為に仲間と共に世界の謎と強敵二人に挑むのである。
長い旅を終えた主人公たちに最終決戦の舞台として用意されたラスダンが『原初の災流庭園』という名の庭園であり、この場所で司とユエルはラスボス役として最後の大仕事を行う事になる。
会議の進行内容によってはストーリー内容や流れが大幅に変更される可能性はあるが、現時点で司とユエルが提出した異世界運用企画書の内容としてはこんな感じだ。
改めて自分たちの考案した異世界とそのストーリーに目を通すと、今回の運用はやはり特別なのだと思えてくる。まるで周年イベントのような気合の入り具合であり、評価対決に勝利したいという渇望が十分に伝わる出来となっていた。
「 (こうして見ると蒼の時と比べて規模もストーリーの長さも一段階上だな……。初のダブルラスボスとしての評価対決って事で気合入れすぎたかな? まぁでも対戦相手はあの手錠双璧なんだ。これくらいやらないと勝てないよな) 」
軽く確認していく途中、司は心の中でそんな事を思った。
今回の評価対決は手錠双璧の弱点を炙り出す為という裏目的こそあれど、だからと言って勝負が適当に行われるかと問われればそんな事は絶対に無い。協会の異世界運用に手を抜くという行為は存在しないのだ。
確かに司とユエルが期待に応える事ができ、手錠双璧の弱点を浮き彫りにして結果彼らの成長に繋がれば、正直勝とうが負けようが司とユエルは役目を全うできたと言えるだろう。
だがやるからには例え相手が格上だとしても勝ちたい。そう思いながら司とユエルは今回の異世界創生会議に臨んでいるのである。そしてそれはこの場に居る全員がそうだろう。




