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第45話

 どうやら司はムイが向けてきた怒りの理由についてある程度察しが付いているようだ。


 確かに司とユエルのようなダブルラスボス役としては素人組を相手にするのは、手錠双璧の二人からしたら役不足もいいところだ。それを理由に司たちに対して良く思っていないのも頷ける。


 しかしムイからはそれだけでは説明できないレベルの敵意を感じたのだ。親の仇かとも言える程のものであり、その怒りは果たしてどこから来るのかユエルには予想すらできなかった。


「で、でもムイさんはあんなにも敵意剝き出しで……評価対決とは関係無しに司くんと私には負けたくないって言っているような気がしました。その敵意も何と言いますか……ライバルに向けられるようなものでなく、親の仇に向けるような邪悪さを感じたんです」


 人の感情に敏感で、尚かつ普段からラスボス役としてあらゆる感情をコントロールしているユエルには分かる。ムイが向けてきた敵意は司が蓮に向けていたのと同類もしくは近しいものであると。


 そして実際にユエルが感じたその感情は間違っていなかったのだろう。だが一つだけユエルは勘違いしている点があった。司はその点について自身の考えを述べる。


「ムイが向けてきた敵意は、恐らく僕と先輩に……ではなく()()()()に対してだと思いますよ。彼の言動には所々にリバーシを毛嫌いしている節が見られましたし。大体初対面の人相手にあそこまで敵意を出しているとなれば、これはもう僕の経歴や肩書きに対するものとしか思えないです」


「り、リバーシに……?」


「はい。つまり僕個人を嫌っていると言うよりも、リバーシの関係者に対しては現役の人であろうと辞めた人であろうと、変わらずあの態度だと思います」


 ここまで聞いてユエルは気付く。もしも司の言っている事が真実だとしたらムイが口にしたあの発言の対象者が変わってくる事に。


「あ……! も、もしかしてムイさんが言ってた『お前たちには絶対に負けたくない』って発言は、評価対決において私と司くんに負けたくないって事ではなく……」


「リバーシには絶対に負けたくないって意味だと思いますよ。だから元リバーシの僕に向かって言ったんでしょうね」


「でもどうしてそこまで……」


 リバーシは確かに実態が謎に包まれている闇の組織染みたところはある。だが彼ら全員に対して協会のラスボス役でしかないムイがそこまでの憎悪を抱く理由は見当たらない。


 一体ムイの身に何があったのか気になるところではある。


「さぁ、さすがにそこまでは。ここまで話してあれですけど、ムイのリバーシ嫌いは僕の予想でしかないですからね。でも取り敢えずムイとロアにはリバーシに関する話題は避けた方が良いでしょうね。変に刺激して今回の評価対決や彼らの異世界運用に影響が出たらまずいので」


「そうですね。お互い気を付けましょうか」


 ユエルがそう決心したまさにその時である。実は手錠双璧を含めた四人のやり取りを物陰からずっと見ていた十歳ほどの見知らぬ少女が二人に聞こえない声量で声を発した。


「ふっふっふ……面白そうな四人じゃない。それにしても界庭羅船に対抗する事を目的とした組織――新旗楼か……まさかこんな簡単に色んな情報をゲットできるなんて。やっぱり転生協会は情報の宝庫ね」


 驚くべき事に彼女は協会内ではコハクとユエルしか把握していないであろう新旗楼に関する事を何故か把握しているようだ。


 コハクがユエルにその話をしたのは会長室であり、あの場にはコハクとユエルの二人しか居なかったはずだ。盗聴器でも仕込まれていなければ説明できないレベルの知り具合だが、一体どのようにして把握できたのか謎である。


 ここで問題なのがこの十歳ほどの少女の正体が一切不明である事。協会の人間なのか、リバーシの人間なのか、はたまた別勢力の者なのか。


 一体どこに所属している人間か分からない謎の少女に新旗楼の事を知られてしまったのは、コハクにとってはあまりにも痛い事であり、もし叶うなら一刻も早く彼女に伝えてあげるべき場面だが生憎司とユエルは少女の存在に気付いていない。コハクに情報共有する事は叶わなそうだ。


 そんなあまりにも不穏な空気の中、謎の少女は不敵な笑みを浮かべ、その場を立ち去った。果たして彼女は何者なのか。その正体が知れるのはもう少し先になりそうだ。

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