第44話
手錠双璧はダブルラスボスの世界で言えば無双していると言っても過言では無い二人組だ。そんな二人組に対し、彼らが把握できていない弱点を克服する為に必要なピースとして選抜されたなど、予想できるはずも無い。
「なるほどね。君がいきなり僕に突っ掛かって来た理由はそれか。確かにダブルラスボス役としては頂点に立っている君たちからすれば、今回の件は面白くないだろうね」
「……」
司の言葉にムイは沈黙状態のまま睨み付けるのを止めない。彼のその目には明確な敵意が宿っており、その異常さは違和感を覚えるものだった。
「 (私たちみたいな、ダブルラスボス役としては素人組が対戦相手に選ばれて納得いかないのは分かる……確かに分かるけど、本当にそれだけなのかな?) 」
事情を知った今、ムイの気持ちはユエルにも理解はできた。だがいくら調子に乗ってる手錠双璧と言えど、これだけを理由にここまで不機嫌になるだろうかとユエルは思った。
ロアは無感情の機械少女みたいな様子を保ち続けている為に感情が読み取れず、今回の件に対してどう思っているかは不明だが、少なくともムイは司に対して異様に怒りを見せている。
ユエルに対してはそこまでだが、司には敵意のレベルが段違いなのだ。個人的な恨みがそこにあるのではと疑ってもおかしくはない。
「俺はな、司。お前たちには絶対に負けたくないんだ。一人の來冥者としてな。さっきはダサい事して悪かった。ロア、行こうぜ。次に会う時は評価対決の時だ」
「……」
ロアは無言で頷き、その後ムイと一緒に司たちから離れていく。
段々と小さくなっていく彼らの背中を見た司は、声を届かせる為に少し大きめの声で二人に伝えたい事を口にした。
「僕にとっては今回の評価対決が本当の意味でのデビュー戦なんだ。君たちがどう思ってても、僕は楽しみにしてるから!」
「……」
案の定、ムイとロアは司の言葉に反応する事なくそのまま立ち去って行く。恐らく彼らもこれから異世界創生会議なのだろう。司たちとは異なる会議室へと向かったのかも知れない。
司たちと距離を十分に取った後、ムイは舌打ちと共にぼそっと呟いた。
「チッ……これだから嫌いなんだ。リバーシの連中は」
その発言は司たちには聞こえず、隣を歩いていたロアにしか届かないものとなった。
ムイとロアが遠ざかって行くのを確認した後、司とユエルも会議室に向かって歩いていた。司の言う通り会議が始まるまでにはまだ時間がある為、特に走らずとも今の歩くペースで間に合う計算だ。
会議室までの道中、司とユエルの間に会話は無かった。本来ならば話す話題などたくさんありそうだが、今の司を見ているとそんな雰囲気にはなれなかったのだ。
「 (……気まずい……。話し掛けたいけど……司くん、何か思い詰めてるし、簡単には話し掛けられないよ……) 」
「先輩」
「は、はい! 何ですか?」
会議室まで沈黙状態を貫いたままになると思っていた矢先に司に話し掛けられたユエルは、ホラーゲームの驚きポイントに遭遇した時のようにビクッと肩を震わし声も少しだけ裏返ってしまった。
「さっきはすみません。喧嘩みたいな所見せちゃって」
「え……あ……別に気にしていないので大丈夫ですよ。それにしてもまさかムイさんがあんなにも私たちの事を嫌っていたなんて思ってなかったです」
しょんぼりと肩を落としながらユエルは話す。自分が嫌われていると知り、それも面と向かってその気持ちを態度と言葉で表されてご機嫌と言う訳にもいかないだろう。
「いや、多分ですけど先輩は別に嫌われてはいないと思いますよ。それと僕個人に対しても恨みとかは無いと思います。そもそも初対面ですしね、彼とは」
明らかに元気の無いユエルとは違い、司はいつも通りの冷静な声で返す。決して良い気持ちにはならない態度を取られたにも拘わらずこの気持ちの切り替えの早さには舌を巻く。




