第41話
「はぁ…… (結局返事を先送りにしちゃったなぁ) 」
コハクとの話を終えたユエルは肩を落としながら司が居る会議室へと向かっていた。まだ時間的には余裕があり、急ぐ程でも無かった。
あの後、ユエルは質問に答える事ができず、残念な事にそのままタイムリミットを迎えてしまったのだ。コハクのスケジュール的に次に落ち着いて話す機会があるとすればダブルラスボスの評価対決が終わった後になる。
その時までには返事を考えておいた方が良いだろう。
せっかくできた新しい友達だ。來冥力がユエルの才能開花によって覚醒しようとしなかろうと、可能ならば彼女に協力して計画を波に乗せてあげたい気持ちはある。ただそれでもその気持ちだけで了承できる程、飛び込もうとしている世界は甘くない。
コハクにとっての人生の分岐点が会長になるか辞退するかなのであれば、ユエルにとっての分岐点はコハクに協力するかしないかになりそうである。
コハクもその辺の事を熟知しているからか、別に気を遣わなくて良いからユエルの好きなようにして欲しいと言って話に区切りを付けた。本当に今日の話はあくまで相談レベルのものだったようだ。
「新旗楼……かぁ……」
そのチーム名を口にすると、どうしてもコハクがユエルを勧誘した理由が脳内を過ってしまう。
自分でも全く心当たりが無い來冥者としての素質をコハクから告げられた訳だが、今のユエルは『疑』の方に天秤が傾き始めていた。どうしても司や他リバーシと同じステージに立てる來冥者になれる未来がイメージできない。
いくらコハクが人を見抜く力を持っていて、かつユエルが分かりやすいタイプの人間だからと言っても、さすがに今回ばかりは当てが外れたのではないかとユエルは内心思っていた。
コハクのあの眼差しは嘘を吐いている人のそれでは無かった。もしもあれで演技をしていて本当の勧誘理由は他にありましたと言われたら人間不信になってもおかしくはない。
なのでその点については特に改めて何かを質問する事など無いのだが、ユエルには聞きそびれた質問があった。
コハクの部屋に居た時は返事をどうしようかと悩む事で精一杯だったが、こうして少し思考に余裕が生まれた事で実は引っ掛かっていた疑問が顔を覗かせたのだ。
「 (コハクさん、何で私だけを呼んで勧誘したんだろう……。コハクさんは私以上に司くんの事を仲間にしたいはずなのに……) 」
効率を考えると確かにユエルの疑問通り二人を一緒に呼んで新旗楼への加入相談を持ち掛けた方が断然良い。彼女の話からすればまだ今回の話は三人しか把握しておらずその中に司は含まれていない。
つまり司を誘うとなればまた同じ内容の説明を彼にしなければならないのだ。ダブルラスボスの評価対決が控えている今、司とユエルは行動を共にする事が多い。スケジュール的にも共通のものになりやすく、二人同時に勧誘した方が効率的なはずだ。
それなのにコハクはその選択を取らなかった。そして極めつけはユエルが退出しようとした時に彼女が放った言葉。
「 (それに、司くんには絶対に今回の事はまだ話さないでって言われたけど……一体何でだろう……) 」
コハクから今日した話は他言無用でとお願いされ、特に司には話さないようにと釘を刺されている。他の人に話さないようにするのは当たり前の事だが、司には言っても良いのではとユエルは思っていた。
司が加入してくれる前提の雰囲気でコハクは話してくれたが、彼が断わればこの計画は破綻し、また一から適性メンバー探しが始まるのだ。情報の共有は早めにしておいた方がお互い損は無いはずである。
今まではタイミングが無かったかも知れないが、今日こうしてユエルと話せた以上は彼も呼び出して伝える事はできただろう。しかしそれをしなかったという事は秘密にしておきたいと考えている訳だ。
本当は司を誘いたくてしょうがないはずなのにそのタイミングをスルーしてユエルだけに話し、司には秘密にさせる。明らかに意図的に行っているとしか思えない。
「 (うーん……トップに立つ人間の考えてる事はよく分かんないなぁ……) 」




