第40話
「そうよ。それに最初言ったわよね? あなたに関係がある話になるって。だからこうしてあなたに話してるのよ」
「……!」
衝撃的な事実が一気に押し寄せてきたせいもあって、その事を失念していたユエルはそう言えばとハッとする。だがここまで話を聞いた限り、やはりユエルに関係がある話のようには到底思えない。
「……。正直なところ、私には分かりません。コハクさんがしたお話のどこに、私と関わる部分があったのか……」
「確かに今までの情報だけだとその疑問が浮かぶのは普通ね。それじゃあそろそろ核心部分に触れましょうか」
コハクは改めてユエルの瞳をジッと見つめ、笑みを消した真面目な表情になる。
「ユエル。あなた……私が計画しているこの対界庭羅船特別部隊に、メンバーとして加入する気は無い? チーム名は『新旗楼』! あ、この名前は昨日の夜にお酒飲みながら考えたわ!」
「……え……?」
一体今何を言われたのだろうか。ユエルの脳内はその疑問で満たされていた。
「あの……い、今……何て……」
驚きと言うよりは信じられないと言った方が今の気持ちを表現するには正解だ。
ユエルの來冥力は司に遠く及ばない。それは空久良蓮との対決で誰よりも間近で彼の戦闘を目の当たりにしたユエルが一番よく知っている。
コハクの話によれば酒を飲んでいた時に命名された新旗楼という名の部隊は、リバーシもしくはリバーシに匹敵する実力者のみで構成される予定となるはずだ。
それこそが牢政ボスの指示であり、どう考えてもそこにユエルの席があるとは思えない。
ユエルのその考えが分かるのかコハクは真剣だった顔から再びニコニコとした笑顔に戻り、ユエルの要求通りもう一度同じ内容の発言を口にした。
「ふふ。私が設立しようとしている対界庭羅船特別部隊の『新旗楼』に加入する気は無いかって訊いたのよ」
「……! え、えーっと……な、何かの冗談ですか? コハクさん、私がただのラスボス役でしかないっていう認識はありますか? リバーシの人みたいに界庭羅船に対抗できる可能性を秘めた來冥者では無いんですよ。大体そのリバーシですら一体どこまで通用するか分からないのに、私なんかお話にならないレベルだと思いますよ」
「本当にそうかしら?」
「え」
コハクの真剣な眼差しを受けてユエルは確信した。彼女は冗談を言っている訳でもユエルをからかっている訳でも無い。本当に心から自分を新旗楼に誘っているのだと。
だがそれが分かったところで結局疑問は晴れないままだ。コハクはこんな自分のどこに可能性を見出してくれているのだろうかと。
「私から見るに、あなたはまだ『開花』していないだけのように見えるけどね。今は無理でも近い将来……必ず界庭羅船に対抗できる貴重な戦力になると思うの」
必ずの部分を強調してコハクはユエルに伝えた。しかし当のユエルはそれでも納得がいかない様子で困惑状態を継続させる。
「そ、そんな事、急に言われても……」
斜め下を向いて目を逸らすユエルは、妙に自信たっぷりのコハクの話を聞いても半信半疑だった。自分にはそんな才能も隠れた実力も無いに決まっていると思う一方で、人を見る目の力に長けたコハクの言葉であればもしかしたらとも思わせてくれる。
「まぁいきなりこんな事言われてもって感じよね。なら質問を変えるわ」
さすがに何の証拠も根拠も無い話を簡単に信じてくれる訳無いかと自嘲気味に笑ったコハクは、ユエルが答えやすいように質問の仕方を変えた。
「仮にあなたが司と同等レベルの來冥者になれた場合、私に協力してくれる気はある?」
「そ、それは……」
俯いたユエルはそれ以降言葉を発さなくなった。正直リバーシに匹敵する來冥者になれたとしても、界庭羅船と本気でぶつかり合う事を考えれば恐怖心の方が先に立つ。
だがそれは当たり前かも知れない。転生協会でラスボス役として戦闘に慣れているとは言え、今日この日まで彼女は全世界の敵などとは無縁の生活を送って来たのだ。あまりにも規模が大きい話についていくだけでもやっとなのに、そんな決断を今すぐできる訳も無い。




