第37話
彼女が計画している事。それは元リバーシメンバーもしくは、それに匹敵する來冥者のみで構成された、対界庭羅船特別部隊の設立である。
この計画はコハク一人で立案されたものではなく、とある男性の協力で生まれたものだった。
その人物こそ五大機関・牢政のトップである。協会と牢政は普段から協力関係を築いている事から双方の歴代のトップは定期的に会食をしており、コハクとて例外では無かったのだが、彼女はそれを相談できるチャンスと見なしたのだ。
会長になったコハクは牢政のトップとの会食時に界庭羅船問題を話題に出し、相談に乗ってもらっていた。自分がリバーシを捨て、転生協会会長の道を選んだ理由も含めて、ユエルに話した内容そのままを伝えた訳だ。
彼は真摯に耳を傾けてコハクの話を聞き、決してバカにしたり正論を言って諦めさせるような事はしなかった。コハクにとって彼のその反応や態度は心から喜ばしいものであっただろう。
エンペル・ギアのトップには冷たく扱われ、『余計な事に首を突っ込むな』と何回言われたか数えるだけで憂鬱になるレベルだ。
恐らく牢政トップはコハクの決断や話している時の表情から、彼女は本気で界庭羅船問題を解決したいと思っているに違いないと判断したのだろう。
その結果彼はコハクに対して一つの提案をした。
『もしもあなたが本気であるならば、私から一つ提案がある。リバーシメンバーと同等レベルの來冥者を、あなた自身を含め、最低五人、多くて八人ほど集め、一つのチームを作り上げてもらいたい。ただし、決して周囲に……特に協会に潜入しているであろうリバーシメンバーにバレてはいけない。その結果、エンペル・ギアに知られては色々と面倒だからな。もしも達成できた時、何故このような提案をしたか……私の真意をお話しよう。ふふ……リバーシを捨て、あの転生協会会長の座に昇り詰めた若き天才だ。この程度の壁、簡単に超えてくれると信じている』
コハクは今でもこの時の会食が強烈な記憶として残っている。
何故そんな提案をして来たのか。牢政トップが何を考えているのかはさすがのコハクでも読み取る事はできなかったし、聞き出す事も不可能であった。
ただそれでも、界庭羅船問題解決に向けて五大機関の一つのトップが味方に付いてくれた事は極上の喜びであり、そんな疑問は一旦後回しと割り切る事ができたくらいには嬉しかったのだ。
その結果コハクは特に余計な事は考えず、首を縦に振った。どのみち界庭羅船に立ち向かう為には、最低でもリバーシメンバーと同レベルの來冥者を味方に付ける事は必須事項だと考えていたコハクにとって、彼の提案を突っぱねる理由など無かったのだ。
その後、話はスムーズに進み、これから界庭羅船問題解決に向けて色々と動き出していくのだろうとコハクは期待に胸を膨らませていた。
だが現実とは非情なもので、スタートラインに立ってから今日までの約三年間、進捗は芳しくないどころか一ミリも進んでいなかった。
すなわち彼女は今日に至るまで、同志を一人も集められていないのである。その理由は明白であり、コハクは悲しげな顔でユエルに話す。
「今振り返ると何で私は上手くいくと思っていたのか不思議でならないわ。元リバーシが誰かなんて分からないし、そもそも転生協会内にそんな人が居る確証も無いし、普通のラスボス役がリバーシに匹敵する來冥力なんて持ち合わせている訳が無いしで……」
「た、確かに……」
リバーシは例え味方であっても正体をバラしてはいけないし、バレてはいけない。
その徹底ぶりが皮肉にもコハクの計画第一歩目を挫かせたのだ。辞めても尚コハクを苦しめるリバーシのルールは最早何かの呪いとしか思えない。
三年も進展が無いなど自己嫌悪に陥ってもおかしくは無い。
唯一の救いはコハクが対界庭羅船特別部隊設立を企てている事がまだ周囲にバレていない事だ。もしバレていたらとうの昔にエンペル・ギアに呼び出され、尋問を受けていた事だろう。そうなっていないという事はまだここだけの秘密に収まっている証拠である。
「この三年、辛かったわ。最初は何でバレちゃいけないの? って思ってたけど、よくよく考えてみたら彼がエンペル・ギアに知れ渡るのを良くないとしていた理由が分かったの」
「えっと……すみません、私には分からないです。特にデメリットは無いように思えるんですけど……」
色々と思考を巡らしたユエルだが、特にこれと言った事は思い付かなかった。




