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第36話

「……」


 ユエルはコハクの話をリアクションも忘れて黙って聞いていた。リバーシは別に正義の味方では無い。それを強く実感してしまい少しだけショックを受けてしまったのだ。


 あくまでもエンペル・ギアの為に動く忠犬。それがリバーシなのだろう。


「現役のリバーシメンバーは絶対的なルールがあるおかげで、まともに界庭羅船と戦った事は無いのよ。じゃあ私や司のように辞めた人が牢政に転職した場合だったらルールに従う意味は無いし、さすがに戦闘機会はあるんじゃないかって思うかも知れないけれど、現状勝てた報告は無いでしょ? これが負けたからなのか、それとも単純に接触機会が訪れていないからなのか、いやそもそも元リバーシの人が牢政に居るのかすら分からない……そんな状況なのよ。本当に……情けない話よね」


「コハクさん……」


「活動内容に含まれていないから? そんな理由であの犯罪者たちと正面から向き合ってないって言うの? そんなの敵前逃亡と何も変わらないじゃない。あまりにも納得がいかなくて、エンペル・ギアのトップに掛け合ったら『そこまで死にたいならリバーシを辞めろ。辞めた後であれば、何をするにしてもお前の自由だ』って言われたわ」


「そ、そんな言い方……何か……冷たいですね……。本当にリバーシの方々を駒としてしか見ていない感じがします……」


 転生協会も司が来るまではガチガチの理念に縛られてはいたが、一人一人の考えや意見を検討する姿勢は取られていた。その上で全て却下されていた訳ではあるが。


 ところがエンペル・ギアは違う。取り付く島もないと言った様子で検討の二文字は存在していない世界である事が垣間見える。


「そんなもんよ。あのババ……ゔゔんっ……失礼……あの人はいつだって、エンペル・ギアの事しか考えていないんだもの」


 いくらこの場に居るのがユエルだけとは言え、実質この世界のトップの事を『ババア』と呼んでしまうのはさすがにマズいと理性が働き、ほぼ言いかけた状態で何とか留まった。


 実際のところエンペル・ギアのトップは三十代前半の女性である。さすがにババアと呼ばれる年齢ではなく、それだけコハクがトップに対して不満を募らせている事が推測できるだろう。


「まぁ確かに一つの世界のトップである以上、界庭羅船にかまけてる暇も余裕も無いのは分かってるつもりだけれどね。でも、界庭羅船は全世界共通の脅威的な存在なのよ? 世界のリーダーが見て見ぬふりして戦いに参戦しないのはどうなの? って思う訳よ」


「コハクさんはそれでリバーシが嫌になって……辞めたんですか?」


「違うと言えば嘘になるけれど……私ね、パーティーがあった日に『協会の次の会長に決まったその日にリバーシを辞めた』って言ったでしょ? リバーシの活動内容的に、メンバーが会長の席に座るのは意味が無くてね。考えてもみてよ。組織のリーダーが組織に潜入しているスパイとか意味分かんないでしょ? だから私は会長を辞退してリバーシで居続けるか、それともリバーシを捨てて協会の会長になるか……その二択を迫られたの。今でも確信してる。きっとこれは私の人生で一番大きな分かれ道だって。散々悩んだ挙句、会長になる事で手にする事ができる権力や人脈、発言力の方が、今の私にとっては遥かに価値があるって思ったの。協会の会長になれば今まで注力できなかった事ができるようになるかも知れないってね。だから私は決定を受け入れて、リバーシを辞めたの」


「……! そ、その『注力できなかった事』って……!」


 ユエルは期待の眼差しをコハクに向け、緊張のあまり声が震えた。


 ただのラスボス役に過ぎないユエルはコハクが普段会長としてどのような事をしているかまでは分からない。


 だが一つだけ分かる事がある。会長になった事で確かにコハクの権力、人脈、発言力は以前とは比べ物にならないくらいに跳ね上がったであろうという事。


 もしもその立場を利用する事で界庭羅船に歯向かえるのであれば、何の躊躇いもなく彼女はリバーシを捨てるだろう。


 何かを成し遂げようとする者は取捨選択能力に長けているが、コハクも例外では無いと言う事だ。


「ふふ。界庭羅船関連に決まっているでしょう? 司の合格祝いパーティーの帰り道に言ったはずよ。ある目的を達成する為に辞めたって。その目的は界庭羅船の逮捕なんだから」


 微笑みながら自信満々に言うコハクを見たユエルはどこか希望の光が差し込んだような気がした。


 確かに界庭羅船の強さは未知数であり、彼らを攻略する糸口はまだ見つけられていないのかも知れない。


 だがコハクが実は水面下で動いているかも知れないのだ。無策で挑むほど彼女はバカでは無い。会長になってから今日に至るまでずっと密かに動き続けていたのであれば、界庭羅船攻略に向けたマル秘計画に進展があってもおかしくはないだろう。


 必然ユエルのテンションは上がり、少し興奮気味になってしまう。


「も、もしかして……普段から何か秘密裏に動いていたりするんですか? い、い、一体どんな……あ、あと進捗状況は……あ、で、でもあの夜確か目的はまだ達成できていないって言っていたような……?」


「落ち着いて。順番に話すから」


「あ、す、すみません。つい……」


 ユエルが落ち着きを取り戻したのを確認したコハクはこれまでしてきた事、そして自分自身が密かに進めている計画をユエルに伝えた。

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