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第32話

 週末を思い思いにゆっくりと過ごしたユエルたちは、活力が漲った状態で週明けを迎えた。今週から司と一緒に評価対決に関する準備が本格的に始動する。


 そして今日は異世界創生会議の初日だ。


 司は新人とは言え一度異世界創生会議と異世界運用は経験済みという事から、本来ならばストック用の異世界を用いて運用を行っていくのだが、今回は評価対決という事でその辺の方向性も普通とは異なっている。


 ゼロからどんな異世界を生み出すのかといった部分も採点対象となる為、それらの備蓄は使用しない流れで話が決まっているのだ。つまり蒼の時のパノン同様、一から様々な事を決めていく異世界創生会議となる訳だ。


 転生協会初のダブルラスボスによる評価対決。注目度の高いこの異世界運用勝負の主役の一人であるユエルは、緊張した面持ちで協会最上階にあるとある部屋の前に居た。


「……すぅー……はぁー……」


 この部屋にはコハクが居る。そう思うと異様に緊張してきたユエルは先程から何度も深呼吸していた。


 先週はコハクの親しみやすさのおかげもあり、友達としてなら普通に接するまで関係を進められたユエルだったが、今は違う。


 これから自分が会うのは転生協会会長としての仕事モード全開のコハクだ。スイッチオン状態のコハクと会って話すのは今日が初めてであり、さすがに緊張してしまう。


 これが友達関係をある程度続けた人相手ならば大丈夫かも知れないが、二人は知り合ってまだ数日程だ。ユエルのような小心者であれば心の準備が必要になるのも納得である。


「 (うぅ、緊張する……先週の私、どうやってコハクさんと話してたっけ……いやいやそもそも今は仕事中なんだからオフの時と同じテンションで行っちゃまずいよね……) 」


 相変わらず心の中の独り言が激しい中、彼女のノアにピコンと反応があった。


「ひゃうっ!」


 不意打ちにも似たその音に驚いたユエルは、声を上げてしまいドキドキしながらノアを展開した。どうやら司からチャットメッセージが飛んできたようだ。


「つ、司くん? えっと……」


 ユエルはノアに届いた彼からのメッセージを心の中で読み上げた。


「 (『僕の方は今会議室に到着しました! 今日はコハク会長と何かお話があるって言ってましたよね? 会議まではまだ時間があるので焦らなくても大丈夫ですよ。それでは』……司くん、律儀だなぁ。ちゃんと返しておかないと) 」


 ユエルは司にメッセージを返し、ノアを閉じる。そして司とのやり取りで多少は緊張が解れたのか、最後の深呼吸をしてから覚悟を決めた表情になった。


「よし……!」


 意気込んだユエルはドアをノックする。


「し、失礼します……」


 部屋の中に入ったユエルはぎこちない足取りでコハクが座っているデスクの数メートル前まで歩く。こうして協会内で彼女を前にすると、先週は感じなかった会長としての威厳を強く感じてしまう。


 そしてこの場にただのラスボス役である自分が個人的な用件で居る事も、とんでもない場違いなのではと思わずにはいられない。誘って来たのはコハクの方ではあるのだが、来て早々ユエルは後悔しそうになっていた。


「おはよう、ユエル。約束通り来てくれて嬉しいわ」


「お、おはようございます! ほ、ほほ、本日は晴天にも恵まれ、す、過ごしやすい一日となっていて……ええと……」


「え、何? 気象予報士のモノマネ? ふふ、もしかして緊張してるの? まぁ確かに今は会長とラスボス役って身分での対面だからその気持ちも分からなくは無いけれどね。でも、だからと言って数日前に築いた私とあなたの関係が変わる事は無いでしょう? ほら、リラックスリラックス。私とあなたって六つしか違わないんだから、そんなガチガチに緊張しなくても良いのよ」


「あ……」


 彼女の笑顔と言葉でユエルの気持ちが一気に軽くなった。今自分の目の前に居るのは数日前に実際に会って話したあのコハクのままだった。その事実がユエルに大きな安らぎを与えたのだ。

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