第3話
「スタートと言えば……来週からだったっけ? 君の本格デビューは」
「はい。本来は教育係がついて色々指導をいただいた上で異世界運用開始ってなるんですけど、僕の場合はユエル先輩と既に異世界運用を経験しているので、その過程を飛ばしていきなり本番らしいです。来週までに世界観考えておけよってカムリィさんから指示がありました」
カムリィ。リバーシのメンバーの一人で、転生協会所属の総責任者でもある。
司は元リバーシ候補生だという事がバレてしまっている身だが、カムリィは今でも二つの顔を難なく使い分けていられているようだ。
「お。それじゃあ今日は心行くまで楽しまないとな。来週から忙しくなる訳だし」
「はい! という訳で今日はとことん騒ぎましょうか、先輩!」
「ですね! 来週に備えて今日は私も楽しんじゃいます!」
「ん? もしかしてユエルちゃんもかなり忙しくなりそうな感じなの?」
司の口振りとユエルの反応からそう思ったマキナは、料理を口にするのを一旦止めてユエルを見ながら質問した。
「あ……えっと……ですね……」
本当は後で重大発表的なノリで言いたかった内容だったのだろうか。煮え切らない様子でなかなかマキナの質問に対する回答を口にせず言葉を濁していた。
気心の知れた友人たちで行われた司の合格祝賀会でテンションが上がった事により、思わず匂わせるような発言をしてしまったに違いない。
「うう……驚かせようと思って今日の最後に話そうと思ったんですけど……司くん、ごめんなさい……」
「そんな謝らないでくださいよ。僕から話します」
一体どんな情報が飛び出るんだと琴葉とマキナは司を見つめて固まる。
やがて司はそんな二人の期待を裏切らないビッグな発表を伝えた。
「来週からの異世界創生会議なんですけど、実は僕とユエル先輩が評価対決を行う事になりまして」
「ええ!? ホントか? あ、でも、一発合格じゃ無かったとは言え、君に対する協会の期待は相当なものだからな。評価対決を実施したくなる気持ちも確かに分かる」
「ねぇ、琴葉ちゃん。評価対決って何?」
「君は……本当に協会の人間なのか?」
「あ、あはは」
「笑ってごまかさないくれ。まぁ確かに割とマイナーな対決だしな。知らずに協会で活動を続けている人が居てもおかしくはないか……」
一人で納得した琴葉は気を取り直してマキナに説明を始めた。
正式名称は『異世界運用評価対決』であり、知る人からは評価対決という略称で呼ばれている。
やる事は至極単純。対決対象の異世界運用を二つ以上同日より開始し、審査員からの評価がより高い方の勝ちだ。異世界それぞれの運用期間を統一する必要は無いが、対象異世界運用間で実施期間を比較した時に長すぎても短すぎてもダメと言われてはいる。
もともと連日転生協会ではいくつもの異世界運用が行われているが、開始日や運用期間がバラバラである事から案件開始日と運用期間が丸々被る事は稀であったりする。
評価対決ではその二つの要素を揃えた異世界運用を二つ以上同時に始め、どの異世界運用が一番優れているかを競う。
司とユエルはこの評価対決に参加する訳だが、この勝負は協会から声が掛かった者にのみ参加権が与えられる競技となっている。つまりどんなに参加したくても自己申告制でない以上、大人しくその時を待つしかないのだ。
基本的には実力よりも『期待が寄せられているラスボス役』に声がかかる傾向にある。
「へぇ~。そんな勝負事がウチにはあったんだね。まぁでも司くんとユエルちゃんなら確かに参加条件は満たしてそうだね!」
琴葉から説明を受けたマキナは、自分の友達が協会に評価され期待されている事実に嬉しくなったのか満面の笑みを浮かべている。