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第29話

 クオリネは言っていた。もしも自分を捕まえる事ができたら一生遊べるだけの報酬が貰えると。


 最初聞いた時は何を言っているんだと思ったマキナであったが、知識を得た今であれば彼女の発言が嘘でも何でもない事が分かる。


 犯罪者を正義の手から守る為に護衛活動をする界庭羅船には、恐らく宝くじ一等が霞むレベルの莫大な懸賞金がかけられているのだろう。


 つまりそれ程までに界庭羅船のメンバーは世界規模の重要大罪人として指名手配されており、その捕獲に難航の色を示しているという事だ。


「依頼料が法外って言っただろう? 大体の犯罪者は依頼するだけの資金がなく、彼らに守られる事は叶わず逮捕されて終わる。ヘタしたら監獄異世界行きになって、一生その世界で生きる事になる。だがもしも界庭羅船に依頼する事が可能なだけの資金が用意できれば……」


「よ、用意できれば?」


 琴葉は一拍間を置きその続きを語った。


「その犯罪者を捕らえる事は一〇〇%不可能になる」


「え……ひゃ、ひゃくぱーせんと!?」


「ああ。さすがにアルカナ・ヘヴン以外の世界に詳しい訳じゃないから、この世界に限定した話にはなってしまうが……これまで逮捕された奴らの中に界庭羅船の依頼者はゼロ。そして逮捕に失敗した時、そのほとんどが界庭羅船の依頼者だった……これが何を意味するか分かるだろう?」


「……」


 それは世界と民の安全、防衛、そして司法などに特化した五大機関であっても、界庭羅船には勝てないという絶望的な現実を示していた。


「牢政は法と防衛を司る、アルカナ・ヘヴン最高峰機関の一角なんだ。五大機関の肩書は伊達じゃない。そんな牢政が全戦全敗している……これは異常なんて言葉じゃ片付けられない事態なんだ。界庭羅船が味方に付いた瞬間、奴ら犯罪者の安全は確実に担保される。そしてこれは、何もこの世界に限った話じゃない。無数に存在しているであろう異世界……私たちが知らない各世界の防衛機関、警察機関が、牢政と同じく界庭羅船に手も足も出ていないんだろう。未だに界庭羅船が世界中を渡り歩いている事を考えると、そう結論付けるのが自然だ」


「そ、そんなのって……!」


「何故界庭羅船が無数に存在する各世界の警察組織を相手に、全戦全勝を可能にしているか分かるかい?」


 そう質問を投げながら琴葉は帰路を再び歩き始めた。これ以上ここに留まる理由は皆無だと判断したのだろう。


 マキナもそれに倣って彼女の横について一緒に同じペースで歩く。


「う~んっとね~……」


 依頼人を守る絶対的な盾として各世界の警察組織に勝てる理由。


 マキナはシンプルだがこれしか無いだろうという一つの理由を思い付き、それを口にする。


「単純に戦力が彼らを上回っているから、かな?」


「そうだ。あいつらの來冥力は常軌を逸している。奴らに挑んでしまったら最後……返り討ちにあって終わるだけだ。中には界庭羅船に殺された人も居るらしい」


 界庭羅船のメンバーは琴葉曰くたったの八名らしい。そのたった八人に、一つの例外もなく全世界の警察機関が負け続けている。


 これは果たして現実なのだろうかとマキナは思わず疑ってしまった。


 先程の女性、クオリネはそんな現実離れした悪の味方の一人だったのだ。琴葉があの時警戒心と恐怖で支配されたのも頷ける。


「……。ねぇ……ずっとこのままなの? ずっと……界庭羅船に勝てないまま終わるの?」


 余程絶望感を植え付けられたのだろう。いつものマキナとは打って変わって声に覇気が無い。


「そんな事、私に分かる訳無いだろ。だけど……」


「だ、だけど……?」


「今までがそうだったってだけで、これからもそうだとは限らないだろう? もしかしたら今この瞬間にでも、この広い世界のどこかで界庭羅船に対抗できる人や組織が誕生している可能性だってあるんだから……」

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