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第28話

「ど、どうしたの、琴葉ちゃん!」


「『界庭羅船(かいていらせん)』――クオリネ……!」


 琴葉は何故もっと早く気付かなかったのかと悔しそうに口にする。そんな彼女の表情と発言内容から隠す意味は無いと確信したクオリネは、鉄仮面を維持したままセリフだけは残念そうに話す。


「……残念。せっかく歳の近いお友達ができたと思ったのに。……ああ、そんな無意味な警戒はしなくても大丈夫よ。私たちは自分と依頼人に危険が及ぶ時だけ『お仕事』をするチームだから」


「……」


「それでどうする? 私を捕まえる? もし成功したらあなた、一生遊んで暮らせるだけの報酬が貰えるよ。ほら、どうする?」


 クオリネは優しく囁くように琴葉へ問い掛ける。


 それに対して琴葉は冷や汗を流しながら精一杯睨み付ける事しかできない。


 マキナはこの状況が理解できないようで一体何が起きているんだと言いたげに琴葉とクオリネを交互に見ていた。


 事態が特に進展する事なく、その後約五秒の沈黙が訪れる。やがて先程の質問に対して答えが返ってくる気配は無いと察したのか、クオリネは小さく頷いてからまたあの冷たい目を二人へと向ける。


「うん。賢明な判断ね。賢い人は好きだよ」


 それを最後にクオリネは再び路地裏へと向かってゆっくりと歩き出した。彼女の正体を知ってしまった今、琴葉はその歩みを止める事ができなかった。


 勝手に近付いて勝手に立ち去った何とも自分勝手なクオリネは、そのまま闇の中へと消えて行った。


 理解が全く追い付いていないマキナは、クオリネの姿が見えなくなってから琴葉へと質問をする。


「な、何あの人!? 琴葉ちゃん、本当にどうしちゃったの? 確か界……何とか? って言ってたけど……」


「……。界庭羅船だ。界庭羅船と言うのは僅か八名で構成されたボディーガードのグループさ。法外な依頼料と引き換えに依頼人を確実に守る絶対的な盾として活躍しているらしい」


「お~! かっこいいじゃん! まぁ依頼料があれなのは闇組織感あるけどね」


「ああ。まさに悪のヒーローって感じなんだろうな」


 予想外の発言にマキナは意味が分からず困惑する。それはボディーガードと聞いて思い浮かべるイメージとは真逆だったからだ。


 普通ボディーガードは対象者を犯罪者から守る為、もしくは犯罪に巻き込まれないように護衛する姿が想像される。正義のヒーローなら分かるが、悪のヒーローとはならないだろう。


 琴葉はマキナの表情を見て更に詳しい説明を始めた。その内容は界庭羅船がいかに危険で、野放しにはできないチームなのかが瞬時に理解できるほどに衝撃的なものだった。


「一体どういう意味だって顔だね。界庭羅船は犯罪者のみを護衛対象にしているんだ。罪状は問わない……殺人、暴行、強姦、窃盗、詐欺、密輸……犯罪としての規模や種類は関係無い。金さえ払えば奴らは仕事をする」


「……!」


 その説明を聞いてマキナは息を吞む。


 何かしらの罪を犯した者のみを護衛対象とする界庭羅船というボディーガードのグループ。彼らは一体対象者を何から守るのか。


 答えは簡単だ。自分を捕まえに来ようとする各世界の警察組織の人間や、憎しみに駆られた者からの復讐からである。まさしく悪の味方と言ったところだろう。琴葉が口にした悪のヒーローという表現も頷ける。

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