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第27話

「 (クオリネ……? この名前どこかで……) 」


「そちらのあなたは、何て名前なの?」


 マキナとの握手を終えたクオリネは琴葉に向かって名前を尋ねる。


「ん……ああ。草薙琴葉だ。よろしく」


 この思い出せない感覚はどうにも気持ち悪いが、その内思い出すか名前の似た誰かと勘違いしているのだろうと一旦琴葉は記憶の掘り起こしを諦める。


 こうして三人は本当に必要最低限な情報のみを伝える簡易的な自己紹介を済ませた。


「いきなり近付いたのはごめん。驚かすつもりは無かったんだけどね。ただこの路地裏に近付こうとしたから気になって」


「どういう意味だい? この路地裏に何かあるのか? 見たところ何の変哲も無い場所だけど」


「だよね~。人も動物も幽霊も居ないし、何か変なものがある訳でも無いしね」


 近付いたキッカケは確かにマキナの何かを見たという発言と好奇心だったが、実際に確認してみると特に異常はなく人影も無い。琴葉も言っていたが気のせいで片付けるには十分過ぎる結果と言えるだろう。


 クオリネは二人の反応に嘘が無い事を悟ると、小さく息を吐いて少しホッとした様子を見せた。意識しないと分からないレベルであった為、琴葉とマキナは彼女の気持ちの変化に気付く事はできなかったが。


「……そう。なら良い」


 それだけを言うとクオリネは琴葉の横を通り過ぎて問題の路地裏へと向かう。


 特に質問をする事もなく二人の話を聞いただけでクオリネは満足したようだった。この路地裏にはやはり何かあるのだろうか。そんな疑念を抱いてしまうような怪しさがクオリネにはあった。


 間違いなく隠し事をしていると思った琴葉はクオリネの肩に手を置き、ストップを掛ける。


「ちょっと待ってくれ。私の質問に答えて欲しい」


「質問?」


 そう言って振り返ったクオリネの髪で隠れていない方の目を見た琴葉は、彼女の凍てつきそうな冷たい眼差しに思わず硬直する。


 もともと表情にも声にも感情が乗っていないクオリネのその目は、無感情の殺戮機械からいきなり向けられる殺意のような鋭利さがあった。


 琴葉は不意打ちを食らったかのような感覚を覚えたが、取り敢えずは平常心を取り戻して話を続ける。


「……。ああ。この路地裏に何かあるのか、と、私はさっき聞いたんだ」


「この路地裏自体には何も無い。ただ私の仲間が異世界間の転移をするところを見られたと思って、ほんの少し気になっただけ。どう、これで満足?」


「は?」


 意外にもクオリネは素直に答えてくれた。どうせ適当にはぐらかされるか無視されて終わるだろうと半ば諦めていた琴葉にとってこれは予想外の反応だった。


 だが問題はその回答内容だろう。


 転生協会に所属している者たちにとって異世界や転移は日常茶飯事レベルで見聞きするワードとなるが、それでもクオリネの言っている事を琴葉は理解できなかった。


「なーんてね。私『お仕事』があるから、この辺で失礼するね。もしも万が一、次に会う事があったら一緒にお茶でもできたら良いね、琴葉さん、マキナさん」


「待て! 絶対今の冗談とかじゃないだろう? 異世界間の転移って一体…… (ん? 異世界間の転移……クオリネという名前……) あ……!」


 それは反射的なものだった。目の前に立つこのクオリネという女性の『正体』に気付いた琴葉は、危険から遠ざかりたい一心で手を放し、数歩後ろへと後退する。

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