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第26話

 警戒心が緩んだ矢先にこの展開は、想像以上に心臓への瞬間負荷がかかるものだ。


「……ッ! あああああああああああああああ!」


 驚きのあまり琴葉は大絶叫を響き渡らせる。


「も、もう! 琴葉ちゃん、びっくりさせないでよ!」


「な、何故君はこの状況下でそんなに落ち着いていられるんだ! 私の声よりもこの女性にびっくりしてくれよ!」


「そ、そりゃあ確かに全く驚かなかったと言えば嘘になるけど、そんな悲鳴を上げる程じゃないよ~」


「ううう……ほ、本っ当に……びっくりした……。じゅ、寿命が縮んだ……ああ、まだ心臓がバクバクいってる……」


 琴葉は自分の胸に手を当てて必死に落ち着きを取り戻そうとしている。


 後ろに立っていた女性は別に血まみれな訳でも脚が無い訳でもなく、間違いなく生きた人間だった。その点はまず安心すべきポイントだろう。


 とは言え今回に関しては正直幽霊か否かは大した問題では無い気はするが。


「あの。そろそろ話し掛けても良い?」


 謎の女性は琴葉を見ながらも二人を対象にその質問を投げる。


 落ち着きを感じられる透き通るような綺麗な声であった。声優か何かを普段は仕事として活動しているのだろうか。思わずそう思ってしまうような美しさだった。


「あ、うん! 大丈夫だよ~。ごめんね、私の友達怖がりみたいでさ……驚いちゃったでしょ?」


「いや、今回は私悪くないだろ……」


「そうよ。あなたは悪くない。無言で二人の背後にいきなり近付いた私の方に非があるんだから。ごめんね」


 謎の女性はそう謝罪の言葉を口にする。だがそこに感情は一切見られなかった。そのせいか社交辞令のようなものを感じる。


「いやまぁ怒ってる訳じゃないから良いんけど、次からはそんなホラー映画の幽霊みたいな登場の仕方は勘弁してくれ。それで……ええっと、今更だけど君は?」


「お。復活した?」


「少しだけな」


 琴葉はまだ平常時と比べると心臓の鼓動は速いが何とか落ち着いて会話できるくらいにはなっていた。となればまずは自己紹介からだろう。


 この謎の女性は意味もなく二人に無言で近付いたヤバい奴でない限りは、恐らく何かしらの用があるのだろう。いずれにしても会話を円滑にまわす為に名前を知っておいて損は無いはずだ。


「私の名前はクオリネ。よろしくね」


 クオリネと名乗った女性はスッと右手を出してきた。お近付きの印に握手しようという事だろう。ロボットのような無感情な声と表情の割に、言動自体は実に友好的だ。


「私はマキナだよ~! よろしく~クリオネちゃん!」


 そう言ってマキナは笑顔で彼女の握手に応じた。


「クリオネじゃなくて……ク、オ、リ、ネ。あなたが言っているのは流氷の天使の方ね」


 もしかしたらよく名前を間違われるのだろうか。指摘する流れがやたらスムーズであり、特に不機嫌な様子も見せていない。慣れているのだろう。


「あ、あはは~。ごめんごめん。名前が似てるからさ~。次からは間違えないから! 許して!」


 マキナが申し訳無さそうに苦笑している中、琴葉は『クオリネ』という名前に聞き覚えがあったようで、どこか引っ掛かっていた。

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