第25話
一方、琴葉とマキナ側は今日のパーティーの感想を話題にしながら歩いていた。
「それにしても今日は本当に楽しかったよね~。司くんのお祝いはできたし新しい友達も作れたし、私自身も楽しめたし、もう最高だったよ~。あと、酔った琴葉ちゃん、大胆過ぎて可愛かったな~」
「そうだな。また機会があればこういうの開催したいと思ってるよ。そして私の酔った姿は記憶から抹消してくれ」
「ふふふ。安心してよ~。他の人には絶対言わないからさ~!」
満足感に包まれた状態で会話を続けていると、ふとマキナが足を止めて路地裏を凝視し始めた。夜の暗さだけでなく道路を挟んだ向こう側となっていた事も影響し、そこに注目するに相当する何かがあるのかはよく分からない。
「……? どうしたんだい、マキナ」
「今そこに誰か居なかった?」
「え? いやいや。こんな時間にあんな場所に人なんて居る訳ないだろう? 幽霊じゃあるまいし……え、まさかそういう……? おい、冗談はよしてくれ」
背筋に冷たいものを感じた琴葉は無意識にマキナの後ろに隠れる。どうやら霊の類が苦手なようだ。
そんな琴葉とは逆にマキナは余裕綽々である。闇に包まれた路地裏の方をジッと見つめたまま観察を続ける。
「……」
余程気になるのか路地裏に向かって歩き出すマキナ。彼女にとっての動力源はいつだって好奇心だ。今回に限っても例外ではなく、もしかしたら本物の幽霊が居るかも知れないこの状況下なのに彼女はウキウキ気分で歩みを進める。
「お、おい! 私を置いていくなって!」
琴葉は小走りでマキナに追い付き、人差し指と親指でマキナの袖を掴んで歩く。
「ちょっと~そんなに怖いの~?」
意外な一面を見たマキナは若干煽り気味に琴葉に声を掛ける。
「当たり前だろ。もし本当にお化けだったらどうするんだ……!」
変に刺激しないようにしなければと意味の無い考慮をした琴葉は小声で返す。
「面白そうじゃん! 美少女幽霊とかだったら寧ろ大歓迎なんですけど~!」
「君の心臓は相変わらずコンクリか何かで補強されているんだな」
こうしてお化け屋敷絶対無理女性と全然余裕少女の組み合わせは、路地裏まで特に危険な目に遭う事なく辿り着けた。
近付いた事で何とか状況は把握しやすくなったが、琴葉の恐怖心は一気に加速した。周囲に人が居ない事もあり、気分は完全に肝試しだ。
見た感じ人どころか野良猫やネズミ等の生き物一匹すら存在していない。路地裏で画像検索すればヒットしそうな細長く暗い道が続いているだけであった。
「ほ、ほら見ろ! 誰も居ないじゃないか。君の気のせいだよ、気のせい。さぁ……とっとと帰ろうよ」
「う~ん……絶対誰か居たと思ったのになぁ」
安心する琴葉に対しマキナはあからさまにがっかりする。
さすがに自分の目で確認した以上、ここにこれ以上留まる理由は無い。霊感でもあればそれを頼りにできたかも知れないが、幸か不幸か二人はその力を所有していない。
ここは琴葉の言う通り大人しく帰ろう。マキナはそう思って後ろを振り返る。琴葉もそれに倣ってゆっくりと振り返ると、そこには見慣れない綺麗な女性が一人立っていた。
年齢も身長もマキナと同じくらいだろう。
白のキャミソールワンピースに身を包み清楚感が溢れ出ている。薄水色のストレートロングの髪型をしており、斜め分けされた前髪は左目を隠していた。
二人に接近した気配は微塵も感じられず、琴葉とマキナからすれば振り返ったらいきなり見知らぬ女性が真後ろに立っていたというあまりにもホラーな状況だった。




