第23話
司の部屋から出た後、琴葉・マキナ組とユエル・コハク組で別れ、それぞれ帰路に就いていた。
いつものユエルなら初対面の人やまだ仲良くない人と二人きりになった際、どんな話題で会話をすれば良いか頭を悩ませるところだが、今日だけは違った。
余程司の合格が嬉しかったのか、コハクとの共通の友達という事もあってユエルは彼の事を話題にして珍しく自分から話を広げている。
「……それで、その時司くんがですね……」
「……」
「……なので、私もう本当に嬉しくて……」
「……。 (この子、さっきからずーっと司の事ばっかり話してるけど……) ねぇ、ユエル。ちょっと聞いても良いかしら?」
「は、はい。何でしょうか」
コハクはキョトンとした顔でユエルに一つ質問をした。
「ユエルって司の事どう思ってるの?」
「……。え。ど、どう、とは?」
ユエルは一瞬何を聞かれているのか分からず、反応が遅れる。そんな彼女を見たコハクは遠回しに聞いても無意味だと察し、ストレートに質問する事にした。
「まぁようするに一人の異性としてどう思ってるの? って事よ」
「……っ……な……ななな、何を急に聞いてるんですかッ!」
案の定その手の話に耐性が全く無いユエルは顔を真っ赤にして叫ぶ。近所迷惑を一切考えていない声量から察するに、反射的な返しだったと思われる。
「そんなに動揺しなくても……。仲間や後輩として好きかどうかに関しては聞かなくても分かりきってる事だけど、そっちの意味での好きかどうかは聞かないと分からないじゃない。……それで? どうなの? ねぇねぇねぇ? 今は二人だけなんだから、正直に話しても別に大丈夫よ?」
コハクはウキウキとした様子を隠しきれておらず、ユエルとは異なって実に楽しそうである。
やがてユエルはこのまま答えないと逆に認めているような気がしたのか、赤面しながらも何とかコハクの質問に答えていく。
「も、もう! ええと、その……わ、私は……た、確かに司くんを男の子だと意識する時はありますけど……で、でも、それが恋愛感情に繋がってはいません! と、とにかく、今は大切な後輩ってだけです! はい、答えました! 以上です!」
「へ~~~~~」
「な、何ですか」
「んーん。別にぃ?」
「むぅ……わ、私だけ答えるのは何か釈然としないので、こちらからも聞きますけど、そういうコハクさんは好きな人とか居るんですか?」
お返しのつもりで何気なく聞いた質問だったが、コハクは図星を突かれた人のような挙動を見せる。瞬きは増え、目は泳ぎ、頬も心なしか朱色に染まっている気がする。
「え? あー……私? そうね~……今は仕事が恋人かな!」
渾身のキメ顔で言ったコハクだが、その発言が嘘なのはユエルから見たら明らかだった。
「……。何と言いますか、コハクさんでもポーカーフェイスが崩れる話題はあるんですね。それが逆演技なら大したものですけど」
「そんなに顔に出てた……?」
最初から誤魔化す気は無いのかそれとも今更したところで無意味だと思ったのか、コハクは特に否定する事なく素直に認める。




