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第22話

「……? 蒼ちゃんとの約束って? 蒼って確か司の妹の名前よね? 司がやった初めての異世界運用の主人公でもある……」


 今この場に居る中で唯一、司が蒼と交わした約束を知らないコハクは疑問顔だ。


 オーディションが終わった司に話し掛けた時にその話はしなかったのだろう。と言う事は何故司が協会に残り続けたいと思ったのか、その動機までは把握していない事になる。


「あ、コハクさんは知らなかったんですね。実は……」


 ユエルはコハクに事情を説明する。


 自分の分まで協会で頑張って欲しいと言った蒼の願いを叶える為に、司は転生協会で活動していきたいと思うようになった事を。


「へぇ~。妹さんの為にね。立派なお兄ちゃんじゃない」


 全てを聞き終えたコハクは感動に近い感情が沸き上がっていた。


「まだスタートラインに立ったばかりですよ。今もパノンで頑張っている蒼に誇れる兄になれるかどうかは、これからなんですから」


 そう言った司の表情に少しだけ憂いの色が帯びた。恐らくは蒼の事を思い出したのだろう。


「確かに、それもそうね。まぁとにかく、本当におめでとう。転生協会会長として心からあなたを歓迎するわ」


「はい!」


 笑顔で司はそう返す。まだスタートラインに立ったばかりと口では言っていたが、肩の荷が一旦下りたのは紛れもない事実。気を張り過ぎず、緩め過ぎず、適度な緊張感を持って、これから頑張っていこうと決心した司であった。




 それからパーティーはコハクを含めた五人で更に数時間ほど続き、夜も遅くなりそうなところでお開きとなった。


 皿などの洗い物は司以外のメンバーが担当した。司が自分でやるからと名乗りを上げたが、主役はゆっくり休んでいてくれと琴葉に言われ、台所への立ち入りすら禁じられたのだ。


 申し訳無い気持ちになりつつも、ここは彼女たちの好意を素直に受け入れようと思った司は大人しく待つ事に。


 そして後片付けも無事に終わり、後は帰るだけとなった四人は玄関にて司に見送られる事になった。


「それじゃあ司くん、おやすみなさい!」


「はい。先輩たちも。今日は本当に楽しかったですよ。ありがとうございます」


「それは良かった。君が楽しんでくれたなら、こっちも企画した甲斐があるしな」


「私は飛び入り参加だったのにみんな受け入れてくれてありがとうね。司におめでとうって直接言えて良かったわ」


「気にしない気にしない! こういうのは楽しんだもの勝ちなんだから! それじゃあね、司くん! バイバ~イ!」


 四人との別れの挨拶を済ませた司は、微笑みながら手を振って玄関での見送りを終わらせる。


「……」


 部屋に戻って来た司はソファへと座り、脱力したまま特に意味もなく上を眺める。部屋を照らすライトの光と白い天井が視界に入る。


 まるで魂が抜けていくかのような錯覚を覚え、今日まで溜まっていた心身の疲れが一気に押し寄せてきた。


 リバーシ候補生として転生協会にやって来て、蒼と再会し、蓮と戦い、候補生をクビにされ、協会のオーディションに挑むも落ち、再挑戦で合格し、そして今日に至る。


 環境と情緒の変化が短期間で何度も訪れたのだ。今までは突っ走るのに夢中で認識できていなかったが、こうしてようやく落ち着ける余裕が生まれると嫌でも心身の疲れを感じてしまう。


 来週から始まるダブルラスボス評価対決の為にも今日はもう休もうと思った司であった。

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