第2話
とある日の夕方。
マンションに住んでいる司の部屋では、ちょっとしたパーティーが行われていた。次の日が休みという事も相まってテンションは高めだ。
メンバーは司、ユエル、琴葉、マキナの四人である。
豪華な食事とケーキ、飲み物、お菓子が用意されており、まさしく宴を開始する時の食卓といった様子だ。
二人と二人が向き合うような位置関係であり、司の隣にユエル、正面に琴葉、その隣にマキナが座っていた。
一通り準備が完了した事を確認すると琴葉が立ち上がって三人の顔を見渡しながら楽しそうに声を発する。
「よし、始めようか! えー、という訳で! これより天賀谷司くんの転生協会への正式加入を記念したプチパーティーを開催したいと思います! 乾杯!」
「かんぱ~い!」
「か、乾杯……!」
パンパンとクラッカーが鳴り響き、これは本当にプチなのだろうかと疑問を抱いてしまう規模のパーティーが開催された。
「ありがとうございます。ホント、僕なんかの為に」
照れ笑いをしながら司は申し訳無さそうに縮こまっている。そんな彼を目にした琴葉は困ったように笑いながら言葉を返した。
「まったく……今日の主役は君なんだぞ? そんな風に遠慮しないで、楽しんでくれたまえよ。その方がこちらとしても嬉しいってもんだよ。せっかくのお祝いなんだしさ」
その言葉が司の気持ちを軽くしたのか、司は緊張から解放されたような自然な笑みを浮かべた。
「それもそうですね。分かりました! それじゃあいただきますね」
「ああ」
満足したように琴葉は席に座り、飲み物を口にした。
「司くん! 改めて、転生協会のラスボス役合格……お、おめでとうございます……!」
ユエルが司の方を見ながらニコッと微笑む。蒼の異世界運用を司と共に行ったユエルはこの中の誰よりも司に対して思い入れがあり今回の結果に喜んでいた。
「ありがとうございます。まぁ一発合格じゃなかったのが悔しいですけど」
「そうそう! 司くん一回落ちちゃったからね~。ま! 転生協会のラスボス役の壁は高いって事だよね! 一発合格するユエルちゃんとかが天才すぎるだけなんだよ~」
協会は一年に四回オーディションの募集を行っており、年四回のチャンスに志願者は夢を求めて挑戦し続ける。
優しい事に落ちてしまってもその年はもう挑戦不可とはならず、例えば第一期で落ちたら第二期にも挑戦でき、また第二期で落ちてしまっても第三期、第四期に挑戦できる。
司は第二期のオーディションを受けて落ちてしまい、その数ヶ月後に行われた第三期でリベンジを無事果たせたのだ。今日はその合格発表から一週間後となる。
「一応蒼の件もあったし、忖度してくれるかなと思ったんだけど……」
「協会はそんなに甘くないぞ。元リバーシ候補生だろうと、指名手配犯を捕らえた功績者だろうと、今後の異世界運用の選択肢を広げてくれた人であろうと、平等に扱うのがウチだからな」
こうして並べると司の経歴と偉業は目を見張るものがある。波乱万丈な人生とはまさしく司の歩みのような事を言うのだろう。
「まぁでも二回目の挑戦で合格したんだし良かったじゃないですか。何年も受からずに挑戦を続ける方だって居るんですから、もっと自信持ってください!」
「そう聞くと二回目で受かったのは確かに傷はかなり浅い方ですよね。蒼と約束したのにスタートラインで躓いてちゃ怒られそうです」
転生協会で今後もラスボス役として活動を続ける。蒼と交わしたこの約束を守る為の第一歩を無事に踏み出せた司は安心感に満たされていた。