第197話
「私、コハク会長の部屋でさっき、司くんの事を憧れの人だって言いましたよね。あの言葉に嘘はありませんから」
「そう言ってくれると、素直に嬉しいです。まさか先輩からそんな目で見られる日が来るなんて、思ってもみなかったですし光栄ですよ」
「……あの時の司くん、そ、その……本当にカッコ良かったです!」
ユエルは頬を朱色に染めながらも勇気を出してその言葉を伝えた。
目を閉じると脳内を駆け巡るのは手錠双璧戦の時のシーンだ。開花適応した後は状況が一気にひっくり返り、ほぼほぼ一方的な戦いになっていたが、それまではユエルがただ守られるだけの存在であった。
どんな状況下でも自分の事を守る為に何度も立ち上がり、盾になってくれた司の雄姿が強烈な印象として残っている。
ユエルにとってはまさに正義のヒーローのように映り、司に抱いた感情を言葉に置き直すのであれば、シンプルだがカッコ良いという表現が最適だろう。
「あ、あの……一つ訊いても良いですか?」
「何ですか?」
「どうしてあんなに、私の事を全力で守ってくれたんですか?」
「え……?」
ユエルの質問に司は目を丸くする。まさかそんな疑問を投げ掛けられるとは思っていなかったのか、彼は即答する事ができなかった。
司は当然の事だと言っていたが、あの時の司は自分の命を犠牲にしてでもユエルを守ろうとしていた。自己評価の低いユエルからすれば、果たして自分にそこまでして守る価値があるのだろうかと疑問に思わずにはいられないのだろう。
「……」
「あ、あの……そんなにジッと見つめてないで、は、早く答えてください……」
「先輩。もしかしてですけど『自分には守る価値なんて無いのに』とか考えてません?」
「え! え、えーと……」
その反応を見て司は自分の考えが間違っていない事に確信を持つ。
「図星ですか」
司からジト目を向けられ気まずそうにユエルは目を逸らす。そんな彼女に対して司は小さく溜め息を一つ吐くと、呆れたように彼女の疑問を解決してあげた。
「確かに開花適応者として使命を果たそうとしていたと言えばそれまでですけど、僕があんなにも必死になれたのは、そんなドライな気持ちだけじゃありませんからね」
「ち、違うんですか?」
「はい。先輩は僕にとって、かけがえのない大切な人なんですから。必死に守るのは当然じゃないですか」
「……た、大切な……人……」
ユエルが司の事を大切な後輩だと思っていたのと同じ感情を、司もまたユエルに対して抱いていたという事だろう。
「協会に来てから先輩にはずっとお世話になりっぱなしでした。それにプライベートでも僕と仲良くしてくれて、一緒に過ごしてると本当に心が安らぎますし、楽しいんです。そんな人が危険に晒されたら、無我夢中で守りたくなるのは普通じゃないですか」
「え、えと、その……あ、ありがとう……ございます……!」
「先輩、もっと自分に自信を持ってください。先輩の事を大切に思う人は僕以外にも大勢居ますし、自分の事そっちのけで守ろうと奮闘する人だって居るんです。まぁようするに僕が言いたい事は、先輩は自分の魅力をもう少し認識した方が良いかなって事です!」
「は、はい! 分かり……ました……? で良いんですかね」
自分のした返事が合っているか不安になったユエルだが、司が楽しそうに微笑んでいるのを見ると少なくとも間違いでは無かったようだ。
「大丈夫ですよ。合ってますから。……そ、それと、ですね、先輩……」
「……?」
急に司の表情からは笑顔が消え、申し訳無さそうな顔になる。




