第194話
「コハク会長。その話は次の機会にしましょう。話し始めると長くなりそうですし、今回の本題と逸れます。僕の方から話題に出して申し訳無いですけど、今度また落ち着いた時にゆっくり話すとします」
正直今すぐにでも聞き出したい気持ちで満たされたコハクだが、彼の言う事はもっともだ。緊急でしなければいけない理由も特に無く、何より手錠双璧以外は全員この後普通に協会の仕事がある。
司の話が長くなる想定なのであれば、ここは彼の言う通り今度また時間を作ってその時に色々と聞くのがベストだろう。
「残念だけれどそれもそうね。約束よ? 死ぬ気で時間作るから、いつか必ずその話聞かせてね。かなり興味があるから」
「はい! もちろんです」
司はコハクの言葉に笑顔で返す。
そんな司を見てその場に居た全員が思った。この男は一体どれ程濃密な人生を歩んでいるのかと。
そして一旦その謎の人物に関する話は深掘りしない方向性で決まった事から、各々が心の中で感想を言う状況になっていた。
「 (司のその話は俺も気になるな。そこそこ長い間司と関わってきちゃいるが、んな話は聞いた事がねぇ。まぁ界庭羅船について話す機会っつーのが、まず俺ら一般人には訪れねぇから当然っちゃー当然だが……) 」
「 (司くん……誰とそんな約束したんだろう……? エンペル・ギアの人? そもそもアルカナ・ヘヴン人なのかな。もしかしたら異世界人の可能性もあるし、私も会ってみたいかも。あ、いや、でも、数年ぶりの再会になりそうなのに私が居たら邪魔だよね……) 」
「 (界庭羅船を倒す事が夢物語じゃなくなっているかも知れないだと? そんな事、有り得るのか? ……。……! まさか……いや、可能性としては十分考えられる。こいつが過去に知り合った人物は、恐らくあいつらだ……!) 」
「 (……。ムイのこの顔……何かに気付いてる。それにしても、お腹空いた。今日のお昼何食べよう……) 」
一人だけ場違いな事を考えていた気がしなくもない中、話は進行していく。
結局最終的に司の話す人物に心当たりがあったのはコハクとムイだけとなった。
「まぁコハク会長含め、みんな司の話は気になるかも知れねぇが、それはまた別の機会にするっつー事で。取り敢えずまとめるとユエルと司は新旗楼に加入してくれるって事で問題無いな?」
カムリィの最終確認に司とユエルは迷いを一切感じさせない様子で揃って返事をした。
「「はい!」」
「らしいですよ。良かったですね、コハク会長」
「ええ」
コハクは叫びたい程に嬉しい気持ちを何とか抑え、微笑み程度に済ませておいた。ここは協会内であり、会長としてあるべき姿を見せなければという意思の元であった。
「……。なぁ会長さんよ」
いつになく真剣な眼差しをコハクに向けたムイは、何かを決意したかのような雰囲気を纏っていた。
「何かしら?」
「その新旗楼に俺とロアも加えてくれないか?」
「え?」
コハクは小さく驚きの声を漏らす。
「何だよその反応。俺とロアをスカウトする目的もあったんじゃないのか? あんたが同情だけで俺らを庇うとは考えにくいし、自分にとって何かしらの『利』が無いとおかしいだろ。それともあれか? 俺らの過去を胸に留めておく代わりに、今回の評価対決の事は口外しないで欲しいっていう取り引きの為に呼んだのか?」
少し小バカにしたようにフンッと鼻で笑ったムイだが、コハクは一切心を乱さずに落ち着いた口調で返す。
「前半部分は違うわ。私の計画に振り回されたあなたたちが、厳正な処罰を受けるのはあまりにも忍びないと思っての行動よ。この気持ちに嘘は無いと断言するわ。そして後半部分は半分正解ね。そんな取り引きを提案する資格が私にあると思う? まぁ取り引きを持ち出す気は無かったけれど、口外しないで欲しいって事を伝えたい点は合ってる。だから半分正解って事……つまりは説得目的で呼んだの。今のは、まさかあなたの方から加入させて欲しいって言うとは思っていなくて驚いたのよ」
コハクの表情と目をジッと見たムイは彼女が嘘を吐いていないと確信する。そして何故自分がそんな事を言い出したのか、動機を話し始めた。




