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第192話

「良かったよ。シルベルスで言ってた悪夢とやらから解放されたみたいで」


「はい! 今のお二人、凄く晴れ晴れとしていると思いますよ!」


「まぁとにかくさ……二人とも、これっきりにしなよ?」


「ですね。次同じ事したら、私本気で怒っちゃいますよ」


「 (開花適応直前のあれが本気じゃなかったのかよ……) 」


「 (ユエルちゃんが本気で怒ったらどうなるのかちょっと見てみたい) 」


 司とユエルの許しを得た事で、ムイとロアは揃って頭を上げた。


 この場に居る六人中四人が謝罪をするという所からスタートしたせいか、少々本題に入りづらくなっている。こういう時は謝って欲しいと要求した司が軌道を修正する事で進行も行いやすくなるだろう。


 そう思った司はいつもの柔らかな表情に戻ってから、何事も無かったかのように話し始めた。


「僕が言い始めた事ではあるけれど、いつまでも謝罪ムードって訳にもいかないし……はい! 取り敢えずこの件はこれで終わり! コハク会長、本題に入りましょうか」


「司……。ええ、そうね。今回あなたたちを呼んだのはシルベルスの時にも話した新旗楼についてよ」


 コハクが本題を話しやすくなるような空気を作ってくれた司に感謝しつつ、彼女は再び席へと座り、長い間夢見てきた新旗楼結成について触れ始める。


「新旗楼がどういうチームか、そしてシルベルスの件含め、これまで私は誰とどんな行動を取って来たかはあなたたちに共有済みだから、その部分は割愛するわね。それじゃあまずユエル。いきなりで悪いのだけれど、聞かせてもらっても良い? あなたの決断を」


「……」


 コハクの質問にユエルは無言で小さく頷く。彼女の中で答えはもう完全に固まっているようだ。


 ユエルは開花適応を果たした。これで來冥力の問題がユエルに付きまとう事は無い。つまりこれ以上彼女を縛るものがあるとしたら、それは恐怖だけだろう。


 界庭羅船に立ち向かう為には勇気が必要不可欠である。司やコハク、カムリィのように感覚が麻痺している者は例外として、普通であればどれだけ強力な実力を持っていても気持ちの面で後退してしまうものだ。


 その感覚が正常であるとコハクは理解している。だからコハクは断られても全然構わないと考えていた。残念とは思わないと言えば嘘になるが、こればかりはユエルにしか決められない事であり、無理やり従わせる事などできない。


 コハクはドキドキしながらもユエルの返答を待つ。


 やがてユエルは意を決したかのように力強い眼差しをコハクに向け、口を開いた。


「私は……新旗楼のメンバーとして、コハク会長に付いて行きます! よろしくお願いします!」


 その答えに、その場に居る全員が思わず息を呑んだ。


 この様子を見るにユエルの性格を考えると断られるだろうと思っていたらしく、こうして予想とは真逆の回答を聞いた事で反応が遅れているみたいだ。


「……。あ、あの……? だ、誰でも良いので何か喋ってくれませんか……」


 さすがに空気に耐え切れなくなったのかユエルが気まずそうに言う。


「……! あ、ああ、ごめんなさい。まさかオーケーの返事を貰えるだなんて。え、本当に良いの?」


 ユエルの言葉に硬直が解けたコハクは、信じられないと言いたげな様子で一応ユエルに確認をした。


「はい! 正直言いますと、やっぱり怖いものは怖いです。あれだけ凄い戦闘を繰り広げた司くんでも、界庭羅船の一人に負けました。それを考えると界庭羅船がどれだけ化け物染みた集まりかが分かります」


「ええ、そうね」


「でも私、今回の手錠双璧との戦いで色々学んだんです。力のある人間が、恐怖を理由に逃げちゃダメなんだって。司くんは自分がどんなに痛くても、辛くても、こんな私を全力で守ってくれました。きっとあれが……開花適応者の理想の姿なんだろうなって今なら分かります。司くんは私にとってはもう、協会の後輩ってだけの存在じゃありません。私にとって司くんは……最高の憧れの人です!」


「せ、先輩…… (さすがに照れるんだけど……) 」


 満面の笑みで語るユエルの隣で一人反応に困っている司は目を泳がす事しかできない。そんな彼の様子は見ていて可愛らしく、コハクは作りものでは無い自然な微笑みを浮かべていた。

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