第191話
「つ、司くん。私は別に気にしてないですから!」
ユエルは険悪な雰囲気になる事が嫌で気にしていないと言う。そんな彼女を見たコハクはすぐに彼女の名前を呼んだ。
「ユエル。良いのよ。だって司の言った事は全部正論だもの」
「コハク会長……」
恐らくコハクは今日この日まで死ぬほど考えただろう。自分のした事は正しかったのかと。自分のした事はやり過ぎだったのではないかと。
そして彼女の中では既に結論が出ていた。後はそれを行動として伝えるだけだ。
「……」
コハクは無言で立ち上がり、自分の前に立つ四人を真剣な眼差しで見つめた。
その直後、彼女はそのまま頭を下げた。
「本当にごめんなさい。さすがにやり過ぎだったわ。もう二度と、今回のような自分勝手な真似はしないと誓うから」
「俺もだ。俺とコハク会長が居れば最悪の事態には発展しない……そうならなきゃ特に問題は無いと判断してしまった。本当に軽率だったと思う。……すまなかった。リバーシのメンバーとして、これからの監査業務には私情を挟む事はもちろん、誤った判断も絶対にしないと誓う」
コハクに倣ってカムリィも頭を下げる。
上層部の人間のこんな姿は基本記者会見の時くらいでしかお目にかかれない。そんな貴重過ぎる姿を間近で見た事により、司以外の面々はどう反応すれば良いか困っていた。そんな中一番早く口を開いたのはムイだった。
「まさかあんたらが本当に謝るとはな。こいつは驚きだ。なぁロア」
「ムイ。空気読んで。今そういうのいいから」
「悪い」
「約束ですよ。コハク会長。カムリィさん」
「「ええ・ああ」」
「ならもう大丈夫です。頭を上げてください」
二人の謝罪はその場しのぎのものではなく心からのものだという事が伝わり、司は取り敢えず今回の件は水に流そうと決めた。
だが次は無い。コハクは私利私欲な行動を二度としない事を、カムリィは自分の上に立つ人間の行き過ぎた行動を看過しない事をそれぞれ誓った。自分でした約束・誓いまで破るようであれば司はもう二人を信じる事はできなくなるだろう。
それでも彼はコハクとカムリィであれば大丈夫だと思っていた。結成したいと思っているチームの重鎮として、そのような裏切る姿だけは見せたくないと誰よりも彼らは思っているはずなのだから。
「……。それなら次は私たちの番」
コハクとカムリィが頭を上げた後、ロアが急にそんな事を言った。ムイはいきなり何を言い出すんだとでも言いたげな表情になり、怪訝そうに見つめる。
「司くん、ユエルちゃん。コハク会長の計画通りだったとは言え、シルベルスの異世界運用を滅茶苦茶にしちゃった事……一歩間違ったら死んじゃうかも知れないくらいに痛めつけちゃった事……あとユエルちゃんにはそれに加えて精神的にも辛い思いをさせちゃった事……本当に、ごめん」
ロアは司とユエルの方に向き直った後、謝罪の言葉と共に頭を下げた。二人が困惑している中、ロアは頭を下げたまま顔だけを少しムイの方へと向け、いつまでも自分と同じ行動を取らない彼に腹が立ったのか、キッと睨んでから頭を上げる。そしてムイの後頭部に手を置き、そのままグイッと頭を無理やり下げさせてから、ロア自身ももう一度頭を下げた。
「お、おい、ロア!」
「……」
「……。わ、分かったよ。……司にユエル、今回は本当に悪かった。正直、どうかしてたよ。それとだな……俺ら相手に正面からぶつかってくれた事、今じゃ感謝してる。ありがとな。……。……おいロア! いつまで俺の頭に手ぇ置いてんだ! もう良いだろ!」
「「……」」
司とユエルはお互いに顔を見合わせ、そして同時に軽く頷いた。




