第190話
リバーシやその他五大機関を束ねるエンペル・ギアが絡んでいるのであれば、守秘義務も相当なものであり、ユエルから無理に情報を聞き出そうとする輩は居ないだろうと踏んでの考えだった。
この設定で実際に上手くいくかどうかは未来の話になってしまうが、今は信じるしかないだろう。失敗したらその時はその時だ。いずれにせよ、コハクやカムリィは遅かれ早かれエンペル・ギア総帥と直に会う必要性が発生する。その時に話題にでも出せば良い。
コハクからこの話を聞いたカムリィは一旦その案に乗る事を決めた。ここまでの事をしたコハクですら開花適応という具体的な現象名については口にしたらマズいと思っているのだ。ユエルの次の異世界運用時に、何とか良い具合にぼかすやり方が恐らく最適なのだろう。
最終的にコハクとカムリィは開花適応の件は伝えず、それ以外の事は嘘を吐く事で報告会を乗り越える事ができた。そして手錠双璧に対する処罰は一か月の謹慎処分という事で決着がつく。
正確にはコハクから話があるとして呼び出しを食らっている為、その話が終わった後から謹慎という事になる訳だが。
そして今日が手錠双璧にとっては謹慎前最後の出勤となったのだ。
「それで会長さん。俺らに話って何ですか?」
「あら。あなた随分と柔らかくなったわね」
「……俺らの事について、協会の人間に嘘吐いてくれただろ。そのおかげで俺らは謹慎処分程度で済んだんだ。それについては素直に感謝してる。……ありがとう、ございます」
「何かそこまで素直になられると気持ち悪いわね。ムズムズすると言うか……」
「あ? 何だよ。人がせっかく素直に礼言ってるって言うのによ」
「そうそう、その感じ。やっぱりあなたはそうでなくちゃね」
「チッ……本当に調子狂う女だな、あんたは」
舌打ちをかましたムイは、溜め息を吐く。本来であればこんな無礼許されないのだが、彼のこの態度については特に咎めなくて良いとカムリィは言われている。そのせいかカムリィはやれやれといった様子で二人のやり取りを見守っていた。
「あの。本題とは逸れるかもだけど」
ここで珍しくロアが自分の方からコハクへと話し掛けた。
「何かしら?」
「どうして……私たちを庇うような事したの?」
その疑問は手錠双璧の二人だけでなく司とユエルも気になっている点ではあった。ムイかロアのどちらかが質問しなかったら自分がしようと思っていた司とユエルは、興味津々な様子でコハクの回答を待つ。
やがてコハクは真面目な顔でロアの質問に答えた。
「シルベルスで話したけど私は今回の評価対決を自分勝手な理由で開催したわ。その結果司とユエルは危険な目に遭ったし、主人公とシルベルスも消滅するかも知れなかった。一応私たちが居たから最悪の事態に発展しそうなら止めてた訳だけどね。それだけじゃなくて私がした事は教唆と言われても文句言えないレベルよ。シルベルスを襲撃したくなるような環境を用意したんだもの」
そこまで聞いてピンと来たのかムイは面倒くさそうに言った。
「はぁ。もしかしたらとは思ってたが、やっぱり同情かよ」
「気分悪くしちゃったかしら。ごめんなさい」
「別に。いかにも元リバーシの人間って感じがして逆にしっくりきたわ」
「そう」
ムイは棘のある言い方をする。リバーシに対する憎悪は消え去ったものの、すぐに彼らを認めて好きになれるかと言われればそれはまた別問題である。
「……。僕は……」
ここでこれまで黙っていた司は若干怒りの感情を含んだ様子で口を開いた。
「正直コハク会長の今回のやり方はどうかと思います。それに彼女の計画に行き着いたにも拘らず止める姿勢を見せなかったカムリィさんも。確かにあの時お二人が近くに居たのであれば、いざという時は問題無く対処できたかも知れません。でも、それをシルベルスやその主人公、先輩を危険な目に巻き込んだり、ムイとロアの触れられたくないキズを刺激しても良い言い訳に使えると思ったら大間違いですよ。本題に入る前に一つやらなきゃいけない事があるでしょう。ムイとロアを勝手に利用して、先輩を危険な目に遭わせた事……ちゃんと謝ってください」
コハクやカムリィ相手にもハッキリと自分の気持ちと考えを伝えた司を見て、ユエルはもちろん、ムイとロアも驚いた顔になった。




