第188話
コハクとカムリィはお互いに顔を見合わせた直後、その場から大きく跳び上がる。勢いをつけていないにも拘らず彼らの跳躍力は目を見張るものがあった。たった一回のその跳躍だけで、二人は司たちが居る場所まで辿り着く事ができたのだから。
まさに開花適応者であるが故の身体能力と言えるだろう。
「……え!? コハク会長に……カムリィさん……! どうしてここに!」
二人の登場にまず司が反応を示す。ユエルは驚きで声すら出せないと言った様子だ。そして手錠双璧の二人は情緒が短時間で激しく変動したせいで、反応をする余裕が無いみたいだ。特に動揺したりせず無言で彼らを見つめていた。
「お疲れ様。司、ユエル。また随分と激しく戦ったわね」
「ま。何はともあれ、あの二人に勝った事についてはおめでとさんって言っておくぜ」
「え……っと……」
何が何やら分からず司は次の言葉がなかなか出てこない。
冷静に考えれば状況としては手錠双璧がシルベルスを襲撃し、世界を壊そうとしていたのだ。協会会長と総責任者である二人がやって来るのは特におかしな話では無いが、あまりにも予想外過ぎてそこまで頭が回っていなかった。
そんな司とユエルの様子から心情を察したコハクは早速本題へ入ろうとする。
「ふふ。ごめんなさいね。今から事情を話させてもらうわ。……そっちの二人も、もし余裕があったら私たちの話に耳を傾けてくれるかしら」
「ふん。やっぱりあんたが裏で全てを仕組んでいたのか」
ムイは変わらず瓦礫に背を預けて座り込みながらコハクを見上げる。反抗的な態度は変わらないが、戦闘でボロボロのせいか随分と虚弱に見えてしまった。
「そんな事件の黒幕みたいな言い方しないでよ。まぁ違うと言えば嘘になるけど」
「今回の評価対決があんたの個人的な目的の元で開催されたのは何となく分かってる。早いとこ教えてくれないか?」
「ええ。それじゃあ今回の評価対決について文字通り全てを話すわ。きっと突拍子も無い発言が次々と出てくるかも知れないけれど、頑張って信じてくれると嬉しいわね」
そう前置きをしたコハクは、カムリィが辿り着いた謎の答えをそのまま口にした。こうして改めてコハク本人の口から聞くと、自分が述べた回答は本当に間違っていなかったのだとカムリィは実感する。
彼女が司たちにした評価対決の真意は彼らに絶大な衝撃を与えた。コハク自らが言った通り、評価対決の真の開催目的はあまりにも突拍子が無さ過ぎたのか、にわかには信じられなかったようだ。
だが途中でユエルが新旗楼に誘われた事を明かしたり、カムリィが補足説明してくれた事から信じざるを得ないという状況になっていく。
そして一通り説明を終えたコハクは満足そうにユエルに近付き、微笑みながら彼女の頭を優しく撫でた。
「ふえ? な、何ですか?」
「よく頑張ったわね。ユエル。怖かったでしょ? それから司も。ユエルを守ってくれてありがとうね」
「……。コハク……会長……」
「当然の事をしただけです。まさか裏計画が進行中だとは思っても無かったですけど」
「ねぇユエル……あの時の返事は今すぐじゃなくて良いわ。きっと気持ちの整理が必要でしょうし、あなたの今後の人生において結構大きな分岐点になると思うの。よく考えて、結論を出して欲しいかな」
「……はい……!」
ユエルの返事は、もう迷いが無いように聞こえる。恐らくだが彼女の中で答えは既に決まっているのだろう。しかしコハクの言う通り結論を急いでも何も良い事は無い。念の為もう一度慎重に考えて、その上で答えを伝えようと考えているに違いない。




