第185話
調査対象と目標が明確に定まっているリバーシは、そんな事にリソースを割く訳にはいかないのだ。基本モデルNを元にして創っているとされる異世界の來冥漂渦を、改めて調べる意味があるのかと問われれば、彼らは全員首を横に振るだろう。
カムリィはコハクならばもしかしてと考えて当時の彼女の思考を予想した。
『それなんですけど一つ良いですか? リバーシは決められた事しか基本調査を行わないし、何か新しい事を始める場合はその価値をエンペル・ギアに説明して許可を貰わないといけない。元リバーシのあなたはその事を知っていたから、人工異世界の來冥漂渦というニッチな所にまで奴らの調査の手は迫らないと読み切って行動したんじゃないですか?』
『さぁ、どうかしらね。想像にお任せするわ』
敢えて肯定も否定もせずコハクは微笑む。彼女にかかれば全てが手のひらの上なのではないかとカムリィは思ってしまった。
『 (……。……本当に敵に回したくない人だな、この人は) 』
カムリィは心の中でそんな事を思った。
コハクが予想したであろうリバーシの行動は見事的中し、結果的にカムリィ含めたリバーシのメンバーが人工異世界を調べる事は過去無かった訳だ。その一点だけを見れば、コハクは協会内に存在している全リバーシを出し抜いたと言えるだろう。
『それで? 話を戻すけれど、來冥漂渦の情報を得たあなたは何を考えたのかしら?』
元々の質問はユエルを開花適応者にさせるという目的に何故気付いたかだ。コハクは早くその答えが聞きたいのか、急かすように言った。
『あ、はい。コハク会長には改めて言う必要は全く無いかも知れないですが、我々來冥者は条件さえ満たせば素質ある者は開花適応者に覚醒できます。俺も最初自分にその覚醒が訪れた時は驚きましたけど、エンペル・ギアから説明があった時は選ばれし者側に立った感じがして感動したもんですよ。ちなみに開花適応がモデルNで発生しないのは、そういう環境ではないからです』
『そうね。私たちがこの世界で生きていけてるのは、生きるのに適した環境だから。來冥力を使えないのは、來冥漂渦の量が少ない世界だから。開花適応も同じ。各世界の環境が不適だったら、どんなに条件を満たしても覚醒はできないわね』
『まさにそこです。参考元をモデルNにしているいつもの人工異世界と、俺があの夜見つけた人工異世界の違いなんて、來冥漂渦の量……もっと言えば開花適応可能な環境かどうかくらいしか無いんですよ。となれば、わざわざ危険を冒してまであの世界の環境に近付ける理由なんて、もう開花適応絡みとしか考えられません』
『なるほどね』
『きっとあなたはモデルN以外の世界の環境を元にして異世界を創った時、本当に問題が発生しないかどうかを確認する為にそんな事をしたんでしょう。……ユエルのような才能に満ち溢れた來冥者が、いつ自分の目の前に現れても良いように』
コハクはずっと待ち続けていた。開花適応者に覚醒できる可能性がある、素質を持った逸材が現れるのを。
そしてカムリィの言う通り、いざそういう來冥者の存在を認知した時に計画を実行できるよう、実験感覚で異世界の創生を数回行っていたのだ。人為的に開花適応可能な環境を生み出しても異常は発生しないかどうか見極める事を目的として。
『最初は誰かを開花適応させたいのかも知れないと思いましたけど、すぐにピンと来ました。今回の評価対決こそ、これまでの準備を全てぶつける本番であり、その誰かにあたる人物がユエルであると。司、ムイ、ロアは既に開花適応者です。つまり消去法で今回あなたが開花適応させたがっているターゲットは必然的にユエルになる』
カムリィは自信満々に語るが、実は当初彼は自分の推理が本当に当たっているかどうか不安を覚えていた。その理由として彼は、ユエルの実力をよく把握していなかった事が挙げられる。
そもそもの話だがユエルが開花適応者になれるだけの実力を持っていなかった場合、コハクの計画は失敗に終わる。だが彼女程の人物が一番重要とも言える才能有無の見極めをミスするとは思えず、そう考えるとやはりユエルには才能があるのだろうかとカムリィは悩んでいた。




