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第184話

 どうせ客は既に死んでいるのだからバレないなんて考えは甘い。協会内に潜んでいるであろうリバーシの人間によって必ず報告され、結果公になるのだ。これこそまさにリバーシの存在意義の一つと言えるだろう。


 その事態を回避する為に、來冥漂渦の存在量がある程度判明しているモデルNに近い環境にする必要がある。


 例えばモデルNの世界規模を一億分の一にまで縮小した世界を創りたければ、來冥漂渦もモデルNの一億分の一で用意するといった具合である。


 異世界創生班はこの來冥漂渦の調整に細心の注意を払わなければならない。当然杞憂でしかない可能性もあるが、ゼロとは言い切れない以上モデルNの環境に近い世界にしておくに越した事は無いのだ。


 それが歴史ある転生協会内では不変の常識となっていた。当然カムリィもその事は把握しており、総責任者として最終チェックの時には特に入念に確認を行っている。


 カムリィはあの夜、異世界運用で創られた世界の環境も確認していったところ、その内の何個かに違和感を抱いた。


 その異世界を構成している來冥漂渦の存在量は、明らかにモデルNとは異なり、更にそれらの異世界のみ最終チェックは例外的にコハクが行っていたのだ。


『正直我が目を疑いましたよ。過去に何度かコハク会長自ら最終確認を行った事があるのは把握していましたが、まさかそれらの異世界全てにおいて、リバーシ加入試験の時の舞台となる世界に近い環境になっていたんですからね』


『ふふ。正直生きた心地がしなかったわよ。エンペル・ギアだけが知っているあの世界の環境だったら、モデルNと同じく來冥漂渦の存在量さえ間違わなければ大丈夫な事は確信していたのだけれど、協会内にはリバーシの人間が何人か居るはずでしょう? そんな中そういう人工異世界の存在を発見された時を考えると……』


 そう言うコハクの表情は笑顔そのものであり、本当にそう思っているのかと疑いたくなる。今だからこそ余裕な態度で語れるのかも知れないが、この女性に恐怖という感情はそもそも存在するのだろうか。


 カムリィはそんな質問が口から出そうになったが直前で何とか呑み込む。そしてその代わりに別の疑問を解消しようとした。


『どうせ当時の創生班には、コハク会長が無理言って無理やり従わせた上に黙っておくようにと圧をかけたんでしょうけど、無茶しますね。その中にリバーシの奴が潜んでいたらどうするつもりだったんですか?』


『あら。こんな協会にとっては非常識な行為を誰かに強制させる訳無いでしょ? 私もそこまで鬼じゃないわよ。あなたが言う通り、その時の創生班の中にリバーシの人間が居る可能性だってあるんだし』


『は? じゃああの記録は一体……。……。……! まさか……』


『えへへ。それらの異世界運用における最終確認日の夜中に、こっそり協会に残ってちょちょいっとね~』


 サラッとコハクは言うが、彼女はとんでもない事を平然とやったのだ。


『勝手に弄って環境変えたって言うんですか? 本当にあなたって人は……行動力の化身ですね。俺も見習いたいものですよ』


『あなたのように改めて見直さない限り、環境の変化に気付く事はまず有り得ない。そして最終確認が済んだら來冥漂渦を再度確認する事は無い。だから私が勝手に環境を調整しても公になる事は無かったわ。それは素直に嬉しかったんだけれど、ガバガバ過ぎる管理体制に協会のトップとしては少し複雑な気持ちになったわね。まぁとにかく、結果としてリバーシの人にバレなかったのは運が良かったわよ』


 現に今でもバレていない事を考えると、協会にスパイとして来ているリバーシも人工異世界を構成している來冥漂渦にまで疑いの目と好奇心を持つ事はどうやら無かったようだ。

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