第183話
無事にコハクから許可を貰ったカムリィは彼女の監視の中、これまでの人工異世界の記録やデータを片っ端から調べていき、その結果リバーシの人間として見過ごせない情報を手に入れたのだ。
その内容とはリバーシの加入試験を行う会場となっている異世界の環境に、極限まで近付けた人工異世界が過去に数回創生されているといったものだった。
普段協会はモデルNを参考にして人工異世界を生み出している。欲を言えば様々な異世界を元に創っていければ良いのだが、生憎彼らが把握している異世界はモデルN以外には無いのだ。
この事から過去に協会が異世界運用の為に創生した各世界の参考元世界は、どれもモデルNになっていなければおかしい。だがその当たり前とは裏腹に、本来エンペル・ギアしか知らないはずの異世界を参考にしたとしか思えない世界が存在していた。
人工異世界は異世界創生班という部門が創り出す事になる訳だが、その時に必ずしなければならない事がある。それは來冥漂渦の調整だ。
來冥漂渦――この世に存在するあらゆる世界にて、來冥者が力をどれだけ使えるかを決定付ける重要な存在だ。
來冥漂渦は各世界を包むように渦巻いている不可視の物質である。
この物質はどの世界にも存在するが、その存在量によって來冥者は來冥力をどれ程使えるかが決まってくる。アルカナ・ヘヴンは來冥漂渦の量が極端に少なく、それが原因で司たちはこの世界で來冥力を使えない。
そんな摩訶不思議な物質だが、実は人工的に生み出す方法が明らかになっている。異世界創生班はその技術を活用する事で、來冥力が使用可能な世界を創り出すのだ。
そしてこの話を聞いた者の中にはこう考え出す人が居る。では來冥漂渦を過剰に生み出せばアルカナ・ヘヴンでも來冥力が使用可能になるのではと。しかし残念ながらそれは叶わない。
理由は至極単純で、本物の世界で來冥力が使用可能になるだけの量を生み出す事は不可能なのだ。
異世界運用における人工異世界とは、ミニマムサイズのおもちゃの家をイメージすると良い。アルカナ・ヘヴンやモデルNのような世界と比べると、その規模はあまりにも小さいという訳だ。
故に本物の世界の環境を変える事は不可能だが、人工異世界であれば現実的な範囲内で生み出せる量の來冥漂渦でも、創生する事ができている。
大規模な世界をミニチュアサイズにまで圧縮し、その世界に転生体を送っているようなものだと協会の人間は新人にそう説明をする。
例えるならプールを満杯にするには大量の水が必要だが、お猪口であれば極少量の水ですぐに溢れる。この話においてはプールが本物の世界でお猪口が人工異世界、水で満杯になっている状況は來冥漂渦が多い状態をそれぞれ指している。
各世界の環境を構成する物質となっている來冥漂渦はまだ謎に包まれている物質だが、それと同時にこの量の存在比率さえ近ければその世界とほぼ同じ環境の世界になる事は明らかになっている。
とある世界Aの世界規模とその世界に対する來冥漂渦の存在比率が他の異世界Bと一致していた場合、AとBは同環境と見なされる。これは人工異世界だろうと天然異世界だろうと変わらない事実だ。
当然そのような世界Aに向かった者は異世界Bと同じ環境の影響を受ける事になる。
そして協会において世界を創る際には、環境をモデルNに揃えるルールが設けられている。
現状知らない異世界の方が圧倒的に多く、アルカナ・ヘヴン以外の世界がどのような環境 (=世界規模に対しての來冥漂渦の存在量) なのか、彼らは把握できていない。もしも創生の時に適当な量で設定し、運悪く転生体に害を与える環境になってしまったら協会は大きく信頼を失う事になるだろう。




