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第18話

 三人から注目の的になったコハクは少し居たたまれなさそうだ。驚かれる事は覚悟しているだろうが、ここまで大きな反応を示してくれるとは思っていなかったのだろう。


 やがて彼女は空気を変える為に大した事無いとでも言いたげな感じで話し始めた。


「そんな驚かないで。リバーシって言っても過去の話よ。過去の話。今はもうリバーシを辞めて協会一本でやっているんだから」


「い、いやいや! 過去だとしても凄いよ、コハクちゃん! しかも司くん、さっき『候補生』とは言わなかったから、正式メンバーだったって事でしょ!?」


「まぁ、そうね」


「驚いたな。私は君からそんな話は聞いてないぞ?」


「だって言わなかったもの」


「いや、それはそうだが」


 そう言う事ではなくてと言いたそうだが、琴葉はその言葉を飲み込んだ。今はそんな点に対してあれやこれやと言い合っても無駄だと思ったからだ。


「い、いつ頃リバーシは辞めたんですか?」


 ようやく言葉を発せるくらいまでは脳の整理ができたユエルは震えながらも聞く。普通に生活していれば正体が判明したリバーシのメンバーと話せる機会などまず訪れない。


 ユエルは生ける伝説を目の前にしている気持ちになり、最初とは別の意味でコハク相手に緊張していた。ただこれは普通であれば絶対に聞けないであろう貴重な話が聞けるチャンスだという高揚感からくるものであった。


「リバーシを辞めたのは協会の次の会長に決まったその日よ。三年前かしらね」


「三年前と言えば私たちが知り合った時期か。とは言え、私が初めて君に話し掛けたあの日にはもうリバーシのメンバーでは無かったのか。もう会長になっていたしな」


「ええ。その認識で合っているわ。あ、そうそう! ねぇ、あなたたち……リバーシの具体的な活動内容は知ってる? せっかくだから教えてあげましょうか?」


「え、良いの!? 聞きたい聞きたい!」


 子どものようにはしゃぐマキナを見てコハクは満足げだ。このような反応をしてくれると、提案した甲斐があったというもの。


「ふふ、ちょっと待ってね。一応話して良いラインかどうかルールを思い出すから」


 コハクはそう言うと頭の中に叩き込まれていたであろうガイドラインの内容を整理する為に、沈黙状態に入る。


 辞めてから三年近く経っているとは言え刻み込まれている記憶と経験は、篩としての機能を十分に果たしてくれるだろう。


「それにしても大分ギリギリを攻めますね、コハクさん。消されても知らないですよ?」


 冗談ぽく言う司は本気で止めたり焦ったりする様子は無い。候補生であった彼は正式メンバーでは無かったものの外部に漏らしてはいけない内容は当然把握している。その司までもがグレー寄りではありそうだがギリギリ大丈夫だろうと判断しているのだ。


 今からコハクがする話はユエルたちが知ったとしても特に問題には繋がらないのは間違い無さそうだ。


 だがリバーシの内部事情に関しては知識ゼロのユエルからすれば、いくら司が冗談めかして言ったとしてもコハクを心配するには十分な発言だった。


「け、けけ、け……消されちゃうんですか!? コハクさん、無理して答えなくても良いですから!」


「司~……不安を煽るような事言っちゃダメでしょ?」


「すみません。でも一瞬それ大丈夫だったかなって思っちゃうような内容でしたから。先輩、心配しなくても大丈夫ですよ。それくらいだったら外部が知っても特にリバーシやエンペル・ギアが不利益を被る事は無いですし」


 基本無関係の人にリバーシの事について話す事は無い為、通常は『教える』という概念がまず存在しない。その為司は『外部が知っても』という表現を使用した。

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