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第15話

 コハクの気持ちを知った二人はお互いに顔を見合わせた直後に共通の気持ちを抱いたようで、小さく首を縦に振って頷き合う。


 そして最初に口を開いたのはマキナだった。


「うん! 分かった! 何か会長さんって言うから、もっと厳しくて怖そうなイメージがあったけど全然そんな事無いんだね! 今日から私とコハクちゃんはお友達だよ! よろしくね! あ、連絡先交換する? 言っておくけど、会長様にお願いされたから空気を読んでそういう対応してる訳じゃないからね! 気を遣わなくて良いなら、私は遠慮なく行くから覚悟してよね~!」


 少なくともオフのコハクには気を遣う必要はなく同年代の友達を相手にする感覚で問題無いと理解したマキナは、完全に緊張から解放されたようでぎこちない笑みからいつもの自然な笑顔へと戻った。


 この辺りの切り替えの早さやすぐに相手の懐に飛び込んで行ける所は彼女の長所なのかも知れない。


「……! ええ! ぜひ!」


 コハクも望んでいた反応と言葉により救われた気持ちになり、嬉しそうにノアを展開してマキナと連絡先を交換し始めた。その姿からは会長の威厳は皆無であり、純粋に友達ができた事を喜ぶ無邪気な女の子にしか見えなかった。


 こういう時、マキナのような人が一人居るだけで場の空気は一気に変わるのだと証明してくれた。


 一方でユエルはもどかしい気持ちを抱えながら、仲良さげにしている二人の事を黙って見ていた。


「 (……マキナちゃん凄いなぁ。私にはあんなの絶対にできない……ううぅ……私も仲良くしたいのに、なかなか勇気が出ない……) 」


 ユエルも気持ちはマキナと同じだしコハクと仲良くしたい気持ちもあるのだが、どう接すれば良いかという考えが脳内を支配し、なかなか話し掛けられずにいた。


 ああすれば良いのか、こうすれば正解なのかと必要以上に考え過ぎてしまい言葉にするのが遅れてしまう。マキナとは真逆のタイプと言えるだろう。


 そんな時だった。ユエルがコハクとの触れ方で悩んでいる事を見抜いた司は、助け舟として会話のきっかけを作ろうと動く。


「コハクさん。ユエル先輩とも連絡先交換したらどうですか? あ、そうだ。それと、最近協会の近くにできたお店、定期的にケーキバイキングを開くらしいですよ。タイミングが合ったら女子会って事で、彼女たちと一緒に行ってみたら良いんじゃないですか?」


 彼が選んだ話題は遊びの誘いに関する内容であり、彼女たちの仲を深めるのにうってつけだろう。


 頭の中で何度もコハクとの会話シミュレーションをしていたユエルからすれば、司の提案は非常にありがたいものであった。コハクに話し掛ける勇気が必要である点は変わらないが、少なくともどんな風に話し掛ければ良いかに関してはもう迷わずに済みそうだ。


「あ…… (もしかして司くん、助けてくれた……?) えと……そ、そのお店は私も気になっていたので、休日にでも誰かを誘って行こうと思ってたんですけど、こ……コハク会……(ううぅ……頑張れ私!) コハクさんも、一緒にどうですか!」


 彼女なりに精一杯勇気を出して何とかコハクを遊びに誘う言葉を口にする事ができた。さすがにマキナのような距離の詰め方は不可能と判断し、さん付けとはなったがコハクを会長ではなく一人の友達として見ている時の敬称としては特別違和感は無いだろう。


 その証拠にコハクはユエルの誘いに子どものような笑顔を見せ、嬉しい気持ちを全面に出している。それは遊びに誘われたからだけではなく、自分の事をさん付けで呼んでくれた事に対する喜びも含まれているはずだ。


「え? 良いの!?」


「は、はい! 人数は多い方が楽しいでしょうし、それにせっかく今日こうして会えたんですから一緒に行きたいです……!」


「嬉しい~! 私接待以外で誰かとそういう所行くの初めてなの! 楽しみにしてるわね!」


 遠足前日の子どものような喜び具合だ。


 転生協会の会長になるまで、そしてなってからも多忙な日々を送っていた彼女にとってユエルたちと一緒に遊びに行く事はまさにビッグイベントなのだろう。

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