第143話
近付けない程の來冥力の放出を感じる中、司は嫌な予感がしていた。
「 (まさか、この二人……!) 」
司の予想が正しかった場合、何故ムイとロアがリバーシを憎み、そして自分たちの來冥力を悪夢と表現したのか、その理由が分かったような気がした。
「 (もしも……もしも僕の予想が合っていたら……いや、ダメだ。同情なんかするな。それはきっとこの二人が一番嫌う行為だ) 」
「つ、司くん……」
不安な気持ちでいっぱいのユエルは思わず司の袖を掴んでしまった。彼女にも分かっているのだろう。ムイとロアが一人の來冥者として格上の存在である事が。
彼女の表情、体の震え、そして司の袖を掴む指の弱々しさからユエルの感情を感じ取れた司はいつもの優しい笑みを浮かべながら話す。
「先輩。大丈夫です。僕がメインで戦うので、先輩は僕の援護をお願いします。彼らの目的は僕に完全勝利した上でコアの破壊をする事です。つまり、戦闘中に隙を見てコアを破壊するような事はまず無いと考えて良いはず……最低限コアに注意しつつもまずは彼らを返り討ちにしましょう」
「は、はい!」
ユエルは蓮との戦いで圧倒的な力を発揮した司を目の当たりにしている。確かに司はクオリネには敗北したが、界庭羅船のような異次元級の強さを手錠双璧が持っているとは考えられず、司が側に居るなら大丈夫かもと安心し始めていた。
それ程までに今の司は頼りになる存在であり、今のユエルの不安を解消する上で必要不可欠な人であった。
「 (恐らく手錠双璧は二人とも普通の來冥者じゃない。開花適応の力を持っている事を考えると、苦戦は必至か……) 」
手錠双璧が二人とも蓮と同じく一般的な來冥者であればどれ程楽だろうか。そんな事を考えている内に、やがて手錠双璧の周りを渦巻いていた光の竜巻は徐々に小規模となっていき、二人の姿を露わにした。
「「……!」」
司とユエルの瞳に映った手錠双璧の容姿をそれぞれ一言で表現するのであれば、ムイは看守、ロアは軍人が適切だろう。
ムイは白いワイシャツの上に濃紺の看守服、赤いネクタイ、黒マントという出で立ちで、頭には帽子を被っており両手には手袋がはめられていた。
そしてロアは臙脂色をした軍服風の衣装に身を包み、ツバだけが黄色の白帽子を被っていた。その白帽子には金色の勲章のようなマークが描かれており、より軍人らしさを醸し出している。彼女もまたムイと同じく両手に手袋をはめていた。
二人は青系と赤系をそれぞれ基調としており、黒白に近い対称性があった。
ムイの左手首とロアの右手首は銀色の手錠で繋がれ、まさに手錠双璧と呼ばれる所以の要素も含まれている。
二人の目を見ると思わずゾッとする。冷酷無情なその鋭い目は一切の慈悲を持ち合わせていないかのようであり、最強の二人組として転生協会で名を馳せるに相応しいオーラを放っていた。
「僕もそうだったから分かるよ。君たち、今はどうかは知らないけどリバーシと関わりを持った事があるでしょ?」
彼らの雰囲気、そして肌に伝わって来る強烈な來冥力。リバーシの関係者だと断言できる証拠は現時点では無いが、可能性としては非常に高い。
司の問い掛けに対してムイは自嘲気味に笑いながら言葉を返した。
「リバーシの関係者……か。叶うんだったら、そうなりたかったよ」