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第140話

 彼らの様子を遠くから見ていたコハクは口を堅く閉じ、何とか読唇術で大雑把な会話内容を把握しようと奮闘していた。まさかリバーシの頃に身に着けたスキルがこんな所で役に立つとコハクは思っていなかった。


「コハク会長。どうですか? あいつら」


「まだ戦いは始まっていないようね。取り敢えず四人とも演技を続けているみたいよ。手錠双璧からすればもう演技なんてどうでも良いのに、変な所で協会のメンバーらしく振る舞うんだから」


「そりゃご立派な事で。ちなみに司とユエルには内緒で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……って情報を、主人公たちが立ち寄る想定の図書館で得られるようにしておいたんですが役に立ってそうですか?」


「ええ、それはもう。どういう理由で封印されたかって所までは明かしていなかったのが良い味を出してるわね。司やユエルが余計な事言って設定に矛盾が生じたりボロが出たりする可能性がこれで無くなるもの」


 細かな設定はラスボス役に慣れているユエル辺りが何とか上手く作ってその場を凌いでくれるだろうと期待していたカムリィだったが、どうやら彼女はその期待を裏切らずに進行してくれたようだ。


「良かった……。あいつらが何の伏線もなくシルベルスに急に現れてしまったら、主人公たちからすれば何が何やらって感じですからね。司とユエルには悪いが、その設定は良い方向に作用しているみたいで安心しましたよ。取り敢えず」


「ふふ。本当に助かるわ」


「これが俺の仕事の一つだと思ってるんで」


 カムリィができる援護は恐らくここまでだ。後は司とユエルの仕事である。


「さて。それじゃあ期待して待つとしますか。司とユエルがどんな結末をもたらしてくれるのか」




 ムイとロアがユエルによって封印された転生者であるという設定は、まさかカムリィが裏で手を回した事で生まれたものであるなど司たちは夢にも思っていないだろう。


 それに今はムイとロアから明確な敵意を向けられており、その謎の設定がいかにしてシルベルス内に誕生していたのかについて思考を巡らせる余裕も無い。自力でその真相に辿り着くのは不可能に近いだろう。


「 (手錠双璧と主人公たちとの関係は不明のままだ。でも一つだけ分かる事がある。この二人の、シルベルスを壊したいって気持ちは本物だ。もしそうだとしたら二人の目的はコアを破壊する事……!) 」


 司の視線がコアへと注がれる。二人が元々コアに接近した事も含めて考えると、その可能性は非常に高い。


 ユエルも恐らく同じ事を考えていたのだろう。ゆっくりと司に触れられる距離まで近付くと彼の袖を小さく掴んでからくいくいと数回引っ張り、こっそりと自分の考えを司に伝えようとした。


「司くん」


「はい。分かってます」


 司はユエルの方を見ずに彼女の小声にそれだけを返した。やり取りなんてこれだけで十分だ。ラスボス役として、協会の人間として、そして一人の來冥者として、今取るべき最適な行動は何か。二人の間でその認識に齟齬は生じてなどいなかった。


「「 (主人公たちをこの場から遠ざけ、シルベルスを守る……それが今の僕・私たちにできる事……!) 」」


 二人の目と表情から動揺や迷いが完全に消え去った。ここからは演技なんて入る余地の無い本物の衝突が必要になる。もしもその戦闘に主人公が巻き込まれた場合、ただでは済まないだろう。


 蓮によって簡単に瀕死の重傷を負わされた蒼の時のように。


「 (くぅ~、テンション上がるぜ! これあれか? かつてのラスボスとの共闘とかいう激熱な……) 」


 未だに状況を勘違いしている主人公の一人は、ラスボスと共闘して裏ボスに挑むという王道かつ胸が熱くなる展開に興奮を隠し切れていない。


「お前たち……今すぐこの場から逃げろ! この二人は本気だ。本気でこの世界を壊し、そして自分たちが望む世界へと作り変えるつもりでいる。能力を失ったお前たち二人に勝ち目など無い!」

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