第14話
マキナがコハクにした質問はユエルの寿命を縮ませるには効果的だったようだ。あまりにも命知らずな発言なのではと、マキナを驚きの表情で見る。
「……」
コハクは自分の耳を疑っているのかマキナの質問に返答できないでいた。だがこれはある意味当然の反応と言える。
ムイのような本物の無礼者は例外としてこれまで会長として周りの人間から慕われ、時には見え見えの媚びを売られたりもしてきたコハクだが、初対面の人がフレンドリーに接して来たのは会長に就任して以来初だ。
マキナの発言は無礼と捉えるのが一般的ではあるが、そういった大多数の者が持っている『普通の感覚』が、皮肉にもコハクを苦しめていたのだ。だがマキナにそういった普通が通じるはずもなく、今回に限っては良い方向に作用したようだ。
「コハクちゃん……コハクちゃん……」
ぶつぶつとコハクは久しく呼ばれていないその呼ばれ方を呟く。
「マキナちゃん……さ、さすがに段階飛ばしすぎたんじゃ……」
「え。そ、そうかな~。もしかして私クビになっちゃう?」
小声でヒソヒソと話をし始めた二人はドキドキしながらコハクの反応を待った。
やがてコハクはパァッと笑顔になってハイテンションでマキナの元に近付く。そして彼女の両手をギュッと握って早口で喋り出した。
「是非そう呼んでちょうだい! 私ね会長とかコハク様とかばっかりで正直うんざりしてたのよそりゃあ一応私も転生協会の代表だし周りの人もそう呼ぶのが立場的にも普通かなって自分に言い聞かせてたんだけど内心はもっとフレンドリーに接して来て欲しいって言うかこう友達同士みたいな感じでみんなとはワイワイやりたいのよねその第一歩としてやっぱりお互いの呼び方呼ばれ方って関係性を示す大事な要素であると常日頃から思っていたの!」
「「「「……」」」」
あまりの変わり様に四人が目をパチクリとさせて困惑の色を浮かべる。これでアルコールが入っていないのだから恐ろしい話だ。
そんな中ユエルが琴葉を見て目で問いかける。本当に同一人物かと。
あまりの饒舌さと早口ぶりにマキナは苦笑いし、沈黙を貫くのはまずいと思ったのか何かしらの言葉を返そうとした結果取り敢えず今一番感じている疑問を口にした。
「ええと……つまり要約すると?」
「コハクちゃんって呼ばれるの凄く嬉しいわ! それも歳下から!」
「あ、あはは~。それは良かったよ~」
引きつった笑顔で若干引いている様子を見せるマキナは、一先ずは自身の選択に間違いは無かった事に安堵する。
「おいコハク。そろそろマキナから離れなよ。こいつに引かれるって相当だぞ」
「あ。ごめんなさい! あまりにも嬉しくてつい……」
コハクは我に返ったようで握っていた手を放し、マキナから距離を取る。そして気まずそうに自分について語り始めた。
「その……恥ずかしながら私、本当に友達が少なくてね。協会内で友達と呼べる関係の人は琴葉や司、後は……ええと……ゔゔん! とにかくね?」
いざ名前を列挙しようとしたら冗談抜きで数えられる程度しか居なかったのか、わざとらしく咳払いをした後に話のまとめに入ろうとする。
「私と接する時は会長っていう肩書きは忘れて欲しいの。仕事中は周りの目もあるだろうから、上辺だけでも礼儀正しくあるべきなんだろうけど、こういう場くらいはさ……。ダメかしら?」
懇願するかのようなその言葉はユエルとマキナに向けられたものだった。




