第139話
この状況下では何故司たちも把握していない謎の設定を主人公は口にできたのか、その部分に焦点を当てて思考を巡らせるべきだが、司はユエルの頼りになる姿を見た事による安心感が疑問を上書きしてしまった。
ユエルの話を聞いた主人公Bは妙に納得したような表情になる。
「なるほどな。俺ら、ムイとロアが封印されたって事しか知らなかったからさ。その辺りの伏線が全く回収されなかった事だけが気がかりだったけど、まさか最後の最後で回収する流れだったとは……」
今起こっている事に対して全く疑問を抱いていない様子の主人公は、まだシルベルスの物語は真の終わりを迎えていない=まだまだ楽しめると思い込んで盛り上がる。
「「……」」
この状況に対して果たしてムイとロアはどんな反応をするのか。数秒程無言状態が続いたが、やがてムイとロアは二人で顔を見合わせ、その直後にムイが突然笑い出した。
「ははは……ははははは!」
ムイは顔を手で押さえ、その豪快な高笑いは少しばかり続いた。
そんなムイの様子を見た他の面々は、急に楽しそうに笑い出した頭のおかしい男としてしか映らず、気を揉んでいた。
一同が彼の言動に注目している中、ムイはようやく笑うのを止め、ブツブツと独り言のように言い始めた。
「司とユエルすら把握していない謎の封印設定を何故かお前らは把握している……なるほどなぁ。俺らも人の事言えないが『あの女』も大概だな。ラスボス役に内緒で勝手に設定を盛り込ませるとはよ」
「何……言ってるの? 君は」
「あ? 察し悪いなお前。まぁ別に解説してやっても良いが…… (せっかくシルベルスにお邪魔させてもらったんだからな。茶番を展開するのも悪くないか。そのクソみたいな設定に乗ってやるよ……!) 」
そう思ったムイはロアを見る。自分の言動に合わせるようにしろと目が語っており、ロアは彼の言いたい事が伝わったのか小さく頷いた。
彼女のその反応がムイにとっては演技開始の合図になる。
「よく聞けお前ら。俺とこいつの目的はシルベルスの再生だ。俺たち二人好みの世界に書き換える事……それをゴールにしてるんだよ。最初の頃は英雄を夢見てこの世界を災害から救ってやろうと思ったが、気が変わった」
ラスボスである司&ユエルとの戦闘を終えた今、ムイ&ロアのポジションとして最も違和感が無いのは、主人公の一人が口にした『裏ボス』という設定だ。
「 (幸いな事にあのバカどもは、こんな滅茶苦茶な展開を協会が用意したアフターストーリー的なものだと勘違いしてやがる。ならその勘違い……利用させてもらう。この世界が滅ぶその瞬間に、せいぜい絶望すると良いさ。俺たちも、この展開も、これから訪れる世界の消滅も、全てが演技でも設定でも無い『本物』だったって事にな。それに転生体とこの世界を守れなかった悔しさを、一生消えないそのキズを、司に植え付けられる。何だよ……よくよく考えてみれば『こっちの方』が楽しめるじゃねぇか) 」
そんな考えに陥っていたムイは思わず口角が上がった。
そしてこれまで沈黙状態を維持してきたロアは、ムイの話している内容に信憑性を持たせる為に自分も演技という名の茶番に加わる事を決断した。
「私たちは彼女を殺してこの世界の再創世を目指す。これがきっと神にとっては一番効く復讐になるからね。今あるシルベルスを壊して、もう一度……今度は私たちの為の世界に作り直すの」
「という事だ。シルベルスを平和にしてくれたところ悪いが……」
そう言うとムイは主人公たちに背を向け、司とユエルの方へと向き直る。
「俺たちの夢、叶えさせてもらうぜ。俺らは封印なんて甘い事はしない。新統治者の邪魔者になりそうな存在は、誰であろうとぶっ殺すだけだ!」