第12話
ユエルとマキナが放心状態なのをスルーし、コハクは自己紹介を始めた。そんなの今更過ぎる自己紹介であり、知っているからこその驚き具合なのだ。
これがもし協会が開催したパーティーとかであればコハクが登場するのは寧ろ当たり前であり、心の準備もまだできていたかも知れないが、今回は話が別だ。
完全なプライベートの時間かつ、予告無しにいきなり現れたのだ。心の準備などできているはずも無い。
「イス四つしかないですし、僕がソファにでも座りましょうか?」
「今日のパーティーの主役はあなたでしょう? そんな気を遣わなくても良いから。とは言えさすがに座りたくはあるから、そうね……私がソファに座っても良い?」
「どうぞご自由に」
「やった」
他三人を置き去りにしてコハクは司との会話を終えてからソファへと腰を下ろす。それを確認した司も元々の自分の席へと座った。
「あ、あの~」
一体何を、そしてどこから話し始めたら良いのか分からない状況下ではあるが、一つ一つ疑問を片付けていくしかない。そう思ったマキナはおずおずとした様子でコハクに話し掛けようとした。
普段は調子に乗りやすいマキナも転生協会トップの人を間近にすると、こんな風になるようだ。これは一つの発見であり、新鮮さも感じられる。
「本物ですか?」
「え?」
あまりにもバカげた質問にコハクは素っ頓狂な声を上げ、次の言葉が出てこない。
「……! マキナちゃん……! ななな、何て失礼な事を……!」
「あはははは! 良いのよ、別に。あなた面白い質問するわね」
恐らくこれまで出会った事の無いタイプだったのだろう。未知の生物に遭遇した学者のようにマキナを興味津々な目で見つめる。
先程の質問に不快感を抱いた様子はなく、本当に面白がっているように見える。
「偽物に見える? 本物だから安心して」
「おおう。本物だったらやっぱり緊張しちゃうな~」
「あなたは確か……マキナで合ってるかしら? 探偵署のエースで仕事を選びがちな問題児って私の耳にも届いてるわよ?」
「うえ? ええと、あはは~……私も有名になったね~」
これは喜んで良いのかそれとも遠回しにもっと真面目に働けと言われているのか、判断に困ったマキナはぎこちない笑みを浮かべる。
ただ司には分かっている。コハクにはマキナを責める気持ちなど微塵もなく、自身の立場を利用してただ遊んでいるだけだと。
「マキナちゃん、分かっているとは思いますけど別に褒められてないですよ」
「で、あなたがユエルでしょ? 天才ラスボス役でオーディションでは余裕の一発合格。司の初めての異世界運用では空久良蓮の逮捕に一役買ったとか」
「は、はい! お、皇真ユエルって言います! よ、よろしくお願いします!」
「よろしくね。もしかして緊張してる?」
これはわざと聞いているのだろうか。自分たちが所属している協会の会長が目の前に居るのだ。あのマキナですら緊張しているのだから小心者のユエルが緊張しない訳が無い。
「緊張するのが普通ですよ。ご自身が転生協会の会長って自覚ありますか? 僕たちのボスな訳ですよ」
先程から司はコハクに対して普通に話しているが、一体どのような関係なのかユエルは質問したかった。しかし緊張プラス二人の会話に割って入る勇気が無いせいで無言で見つめるだけになってしまった。
こういう時、自分は本当に損な性格をしているとちょっとした自己嫌悪に陥る。




