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第110話

「き、緊張してるんです。私、異世界運用は今までずっとソロでの活動でしたし、評価対決も初めてなんです。司くんや皆さんに迷惑掛けたらどうしようとか、私のせいで手錠双璧のお二人に負けたらどうしようとか、そんな事ばかり考えちゃって……」


 ユエルの声は不安な気持ちで満たされていた。呼吸も荒く司の想像以上に彼女は緊張しているようだ。


 だがこの反応は至って正常である。関係者以外は評価対決の事を一種のお祭りや娯楽のようだと捉えがちだが、司たち側からすればこれは遊びでは無い。


 この対決の結果は協会での自分に対する評価に直結し、特に期待を寄せられている彼らにとっては実力をアピールできる貴重な舞台なのだ。ユエルのような小心者でなくとも緊張で体がガチガチになってしまうのは普通の現象と言えるだろう。


 寧ろ平常心を保てている司の方が強メンタルである。このようなちょっとした所でも一般人と元リバーシの違いが垣間見えていた。


「先輩……」


 司はここまで不安な表情で緊張しているユエルを初めて見た。適度な緊張は最高の状態を形成するが、ここまでとなると体が強張り本来の実力は発揮できないだろう。


 何とかして緊張を解してあげようと思った司は優しい声でユエルに話し掛ける。


「大丈夫ですよ。そうですね……まずは深呼吸してみましょうか。落ち着いて……いつも通りの僕たちを見せればきっと成功します。リラックスして、せっかくの良い機会なのでお互い楽しんでいきましょうよ。ね?」


「司くん……は、はい……! すぅー……はぁー……」


 これがラスボス役一人対一人形式の普通の評価対決だったらユエルは間違いなく緊張と不安で押し潰されていただろう。だが今回は違う。彼女の隣には司が居てくれる。


 確かに異世界運用という面ではまだまだ未熟かも知れないが、いつも一緒の時間を過ごしている人が側に居てくれるという事実を再認識したユエルは少しずつではあるが緊張が体から抜けていくのを感じた。


 司から言われた通り何回か深呼吸したユエルは、少しだけ平常心を取り戻したようだ。


「あの、ありがとうございます。すみません……本当は私が先輩として堂々としていなければならないのに、逆に励まされるなんて……」


「謝らないでください。初めてだらけの事なんですから、緊張するのは当たり前じゃないですか。僕だってリバーシ加入試験の時は緊張で吐きそうだったんですから。今回のはその時の経験で少し心臓が鍛えられたってだけです」


 大丈夫そうに見えている人も昔は今の自分と同じだったと知れば、不思議と安心感を得られる。司の言葉、声、笑顔は、今のユエルにとってどれだけの救いとなったかは計り知れない。


「司くんもそうだったんですね。少し安心しました。……あ、あの……」


「はい? どうしました?」


 ここでユエルは明らかに先程までとは違う意味での緊張に支配された状態に変化していた。頬は朱色に染まり、目は面白いくらいに泳いでいる。


 やがて勇気を振り絞ったユエルは小さな可愛らしいポーチを開け、中から赤と紫のミサンガを一つずつ取り出してそれを司へと差し出した。


「こ、これ!」


 恥ずかしさのあまりユエルは司の事を見れず、顔をやや下へと向け目線を合わせられずにいた。


「これ……ミサンガですか? 凄く綺麗で可愛いですね」


「きょ、今日の為に用意したんです! あ、あの……だから、その……」


「ありがとうございます。赤い方頂きますね」


「……! は、はい!」


 ユエルは司が受け取ってくれた事が嬉しく、思わず顔を上げる。


 司は口にした通り赤い方のミサンガをユエルの手から受け取り、右手首に付けようとした。

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