第11話
琴葉が司から言われた言葉の嬉しさに浸っているなど知る由も無い他の三人は、パーティーを引き続き楽しんでいた。
「それでさ、その時探偵署の上司がね……」
今は探偵署で最近起こった出来事を話題にし、マキナがメインで話していた。彼女の話はラスボス役の司とユエルからすれば興味深いものばかりで、聞いていて飽きない。
そんな時だった。突然ピンポーンとインターホンが鳴り、三人の視線がドアに吸い寄せられた。
「誰だろう、こんな時間に」
司が立ち上がってドアの方へと向き、そう呟く。
今日パーティーを共に過ごすのは四人だけのはずであり、司に用があって訪れそうな人も特に思い付きはしない。誰に投げた訳でも無い独り言に近いその言葉に真っ先にマキナが反応した。
「もう~これからが面白くなるのにな~。本当に誰だろうね……ハッ……もしかして騒ぎすぎちゃってたかな。クレーム言いに来たお隣さんとか」
「ええ、ど、どうしましょう。と、取り敢えずその場合は謝りましょうか」
「そんな事しなくても良いですよ。僕が出て来るので、先輩はマキナと引き続き楽しんでてください」
そう言って司は室内のドア近くに設置されているテレビドアホンへと向かう。
「はい。どちら様……で……」
モニターに映し出された人物を見て司は固まった。司の目に入ったのは紛れもなく転生協会会長であるコハクの姿だった。
言葉を失った司を見てユエルとマキナは不思議そうに彼の背中を見つめた。
「司くん、どうしたんでしょう?」
「さぁ? 知り合いなのかな」
司に聞こえないレベルの声量で会話を始める二人をよそに、司は何故コハクが訪ねて来たのかについて思考を巡らせていた。やがていくら考えても仕方ないと思った司は落ち着いてからモニターに映る彼女に話し掛ける。
「いきなり訪ねてくるなんてビックリしましたよ。何の用です?」
「別に? ただあなたのお祝いをしに来ただけよ。いきなり来たのは本当に申し訳無いと思ってるけど、取り敢えず上がっても良いかしら? ここで私に立ち話させるなんて意地悪な事、あなたはしないでしょう?」
「……。今行きます」
そう言って司はモニターを切った。後ろでユエルとマキナが自分に注目している事に気付きつつも、今は相手が誰かを彼女たちに説明するよりもコハクを上げる事の方が先だと思い、部屋を後にした。
まさか自分たちが所属している協会の会長様だとは夢にも思っていない二人は、呑気にも誰なのかと予想を繰り広げる。
そんな中、ドアが再び開いた。
「今インターホンが聞こえたけど、誰か来たのかい?」
「……! 琴葉ちゃん! 大丈夫ですか? もう気分は良くなりました?」
「ああ。リバースしたら楽になったよ。ついでに酔いも醒めたし、もう大丈夫さ。あんな失態を見せるなんて恥ずかしいよ、本当に」
琴葉は内心苦笑いをしながらイスを自分の席だった場所へと戻し、座る。彼女が座ったと同時にマキナは先程二人に投げられた質問の回答を口にした。
「誰が来たかは分かんないんだ~。今司くんが対応中だよ」
「そうか。……うん、確かに時間的にもそろそろだね」
リビングにある時計を見ながら琴葉はそんな感想を漏らした。それは誰がやって来たのか分かっているような感じの発言だった。
「え? それってどういう……」
ユエルが全てを言い終える前に、室内にドアが開く音が広がる。三人の視線が音のした方へと集まり、結果来訪者の正体が誰なのか、その答えを知る事になった。
「……ッ!」
「え」
そこに司と共に立っていた女性に、ユエルは驚きのあまり声が出ず、マキナもその一文字を発して以降、口を半開き状態にして固まってしまった。
それ程までにコハクの登場はインパクトが大きすぎたのだ。
「はぁい。みんな揃ってるわね。初めての人も居ると思うから自己紹介からかしら。さすがに知ってくれていた方が私としては嬉しいんだけど、コハク・カンツィオーネよ。一応転生協会第五五代目の会長として、その席に座らせてもらっているわ」




