第109話
「んじゃあ俺はこの辺で失礼させてもらうぜ。あー、それとだ。色々と教えてもらっといてこんな事言うのは憚れるんだがな……」
「何ですか?」
「ムイとロアの調査を今すぐ止めて欲しい。 (変に情報得られても面倒だしな) 」
「え? で、でも……」
「 (まぁそんな簡単には引き下がらないか。なら……) 実はな、ムイとロアの調査をマキナから引き継げってコハク会長から言われていてよ」
当然そんな指示は出ていない。マキナを納得させる為に吐いた嘘である。
「え、コハク会長から?」
「ああ。本来は俺に割り当てる仕事の予定だったけど、それを伝えようとした矢先にお前が探偵署で揉めてる所に遭遇したみたいでよ。俺のタスクもかつかつだったし、ちょうど良いから一旦基本的な調査はマキナに任せようと切り替えたみたいだ。お前の腕を見込んでな。その証拠にマキナの勘と嗅覚を信じて鴻仙総監まで動かしたって話だろ?」
「私の腕を……見込んで……!」
「 (やっぱこいつチョロいな。) ま、こっから先は俺の仕事っつー事だ。消化不良感はあると思うが、ここは我慢してくれ。な?」
「分かりました! そういう事なら!」
「おう。調査ありがとな。マジで助かった」
そう言ってカムリィは二人に背を向けて歩き始め、本当にこの場から離れて行った。
「話は終わったみたいだな」
カムリィがマキナの元から離れて行ったのを見た琴葉はそんな事を言いながらマキナに近付く。
「うん!」
「……? 何かあったのか? 随分とご機嫌だな」
「いや何でもないよ。あと琴葉ちゃん。ごめんだけど調査は打ち切り!」
「は? おい急にどうした! ちゃんと説明しろ!」
納得がいかない琴葉に対し、マキナはニコニコしながら先程の話を嬉しそうに語った。彼女の話を聞いてカムリィに上手く丸め込まれた感がしなくもないと感じた琴葉だったが、マキナが満足しているなら良いかと深く考える事はしないのだった。
マキナたちと別れたカムリィは歩きながら調査が無事に終わった事に対する満足感と達成感に浸っていた。
「 (よし、これで調査は終了だ。清々しい気持ちのまま評価対決当日を迎えられるってもんだ) 」
今この瞬間をもってカムリィの中の疑問は全て解決された。後は彼の言う通り評価対決本番を迎えるだけとなった。
そしてついに評価対決本番の日はやって来た。カムリィにとってはコハクと答え合わせを行う日でもある。
ダブルラスボス&ダブル主人公による異世界運用を前提とした評価対決は協会初という事もあり、その日は朝から協会内が落ち着きを見せなかった。
ダブルラスボスの評価対決だけでも注目を集める十分な理由になるのだが、今回はそれに加えてラスボス役が手錠双璧『ムイ&ロア』、元リバーシ候補生の司、協会内でも屈指の実力者ユエルの四名なのだ。
一体どんな結末を迎えるのかと期待値が爆上がりするのも頷ける。
しかしながらそれは、選手側にとっては当然かなりのプレッシャーになる訳で。
「うう……」
「先輩? どうかしましたか? 手が震えてません?」
評価対決開始一時間前。
司&ユエルペアの待機室ではユエルがイスに座りながら手をグーの形で握り締め、必死に吐き気レベルの緊張と戦っていた。