第104話
ラスボス役として才能があるかどうか。彼がそんな意味で言っている訳では無い事など、司は百も承知であった。
リバーシに関係のある者・あった者同士で使用されるその隠語は、リバーシメンバーに必要な來冥力を獲得可能なポテンシャルを秘めているかどうかという意味になる。
他の人ならまだしもカムリィの口からそんな質問を司相手にしているとなると、まず間違いなくリバーシ加入試験に合格できる器の來冥者だと思うかどうかを訊いてきているのだろう。
だが問題は何故カムリィが突然そんな事を気にし始めたのか。その一点だ。これはリバーシメンバー全員に共通している事なのだが、普通彼らは他人がリバーシとしての素質があるかどうかを気にしたりはしない。
仮にユエルがリバーシ加入試験で合格できるだけの器を秘めていて、カムリィの中でもそう評価されていたとしても、わざわざ話題に出す程気にするような事柄では無いのだ。
「どうしてそんな事を急に訊くんですか?」
「勝手な事言って悪いが、この話に関してお前からの質問は受け付けない。……で、どうなんだ?」
「……」
カムリィが何の理由もなく雑談感覚でこの話題を出すはずが無い。一体カムリィが何を思ってこの質問を投げたのか気にはなるところだが、カムリィの様子からするにその理由を口にする事は無さそうだ。
司は諦めてカムリィの質問に答える。
「僕は才能『あり』だと思ってますよ」
「ほお」
司の回答にカムリィは面白そうだと言わんばかりに笑みを浮かべる。
ユエルが聞いたら全力で否定しそうだが、自他の評価は異なる良い例だ。コハクと言い司と言い、見る人が見ればユエルはダイヤモンドの原石として映るのだろう。
「蒼の異世界運用で僕は先輩と一緒に空久良蓮と戦いましたけど、その時彼女の來冥力を間近で感じて、先輩だったらきっと……って思いますよ。性格面はともかく、少なくとも來冥力だけで言えば条件を満たしているんじゃないですかね」
「そうか」
妙に納得した様子を見せたカムリィは缶コーヒーを飲み干し、立ち上がってからごみ箱へと捨てた。
そして満足したような表情になると司の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「お前の意見が聞けて良かった。俺はコハク会長みたいに見ただけで相手の素質を見抜ける程の慧眼は持ってねぇし、司みたいにユエルの來冥力を直に感じた訳でもねぇしで、あいつの事は何も知らなかったからな。多分俺の予想は間違ってない……今回の異世界運用は、そういう事なんだろうよ」
「カムリィさん? 一体何の話をしているんですか?」
「……。いや、何でもねぇ。お前は難しい事考えなくて良いから、シルベルスの異世界運用だけに集中していればそれで良い」
「……」
その言葉で納得しろと言うのはさすがに無理がある。
だがここで教えてくれと懇願しただけで答えてくれるなら、カムリィはとっくに質問の意図と発言の意味を司に教えていただろう。
これ以上はいくら訊いても無駄だ。そう判断した司は、素直に首を縦に振らざるを得なかった。
「分かり、ました」
「おう。んじゃあそろそろ会議室に行こうぜ。適度に歩いてコーヒー飲んで、お前と話してたら眠気もどっかいったしな。……ふわ~ぁ……わりぃ、嘘吐いた」
そう言って司の返事を待たずにカムリィは歩き出した。
誰がどう見てもカムリィは何かを隠しており、それは少なくとも司相手には話せない内容のようだ。それは司の事を信じていないからかそれとも内容的に話せないからなのか。
元とは言え、カムリィは司にとってリバーシの教育係にあたる人物であり、先輩でもある。そうでなくなった今でもこうして同じ場所で一緒に活動を続けている。
信頼関係は築けているはずだと思っていたが、それは一方的な思い込みだったのだろうか。そう考えたくない司は、カムリィが彼に話せない理由は後者であって欲しいと心から願ったのだった。