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第102話

 まさかカムリィもコハクも個人的な用件で協会に泊まったなど露知らない司とユエルは、やはり上層部の人間は大変そうだという呑気な感想を同時に心の中で呟く。


「それじゃあ仮眠室に行きましょうか」


「うーん……」


「司くん?」


「もしコハク会長がまだ寝ていたとしたら、その最中に突撃する訳でしょう? さすがに彼女も寝起きを異性に見られるのは良い気分しないんじゃないですかね? カムリィさんにそれを見られるのが恥ずかしくて思わずくノックだけで良いって言ったんでしょうけど、アラームでも起きれない人間が正直ノック音だけで起きられるかどうか怪しいですし、僕は遠慮しておいた方が良いかと……」


「確かに言われてみればそうかもです……となれば、行くのは私一人の方が良さそうですね」


「すみません。先輩に丸投げするみたいで申し訳無いですが、お願いしても良いですか?」


「私が勝手に引き受けた事なので、そんな謝らなくても大丈夫ですよ。コハク会長を起こすのは私に任せてください!」


 こうしてユエルは一旦司と別れてから女性用仮眠室へと向かった。


 喫茶店や大浴場、仮眠室だけでなく売店やコインランドリー、保健室まである転生協会は正直住もうと思えば余裕で住める環境と設備が整っている。そのあまりの居心地の良さにカムリィのように咄嗟の思い付きで協会に泊ろうとする発想に至ってしまうのが、唯一の弱点ではあるのだが。


 女性用仮眠室の前にやって来たユエルは立ち止まり、ドアをノックする。


 特に反応はなくやはりもう起床しており、中には居ないのだろうか。もしくはノック程度の音では目覚めない程に深く眠っているかも知れない。


「うーん。やっぱりまだ寝てるのかな? それとももう起きてるのかな? ……あ! そう言えば確か仮眠室を使う時のルールに……あった、コハク会長の名前だ」


 ユエルは仮眠室の扉近くに立て掛けられているボードに視線を向けた。誰が何時から何時まで利用予定かが外の人間に伝わるよう、利用者は名前と使用予定時間を記し、利用後はそれを消す決まりがある。普段使わないとこのルールを忘れそうになる為、発見が遅れてしまった。


 見る限りコハクの名前と利用予定時間はまだ残ったままだ。ちなみにその時刻はとっくに過ぎており、コハクが消し忘れた可能性を除外すれば大寝坊という事になる。


「……。コハク会長には悪いけど、中に入って起こそう……」


 意を決したユエルは仮眠室へと入る。カーテンは閉められ、電気も消されているせいで朝だというのに中は暗かった。


 取り敢えず視界を安定させる為にユエルは電気を点ける。急に眩しくなった事で思わず目を瞑る。少ししてからゆっくりと目を開け、人が寝ている気配がするベッドへと近付いた。


「すぅ……すぅ……」


 ユエルの予想通りコハクは気持ち良さそうな寝息を立てながら眠っていた。さすがにノアでアラームは設定したのだろうが、二度寝もしくは三度寝してしまったのだろう。


 傑人と評価するに値するコハクでも寝坊している所を見ると、同じ人間なのだとどこか安心してしまう。協会どころかアルカナ・ヘヴンでもトップクラスに多忙な日々を送っているのだから、このまま寝かしておきたい気持ちもあるがそういう訳にもいかない。


 ユエルは心を鬼にして毛布に手を置き、揺らしながら彼女に声を掛けた。


「会長。コハク会長。起きてください。もう朝ですよ」


「ぅん……」


「……」


「すぅ、すぅ……」


 全く起きる気配の無いコハクは無防備な寝顔をユエルに晒し、可愛らしい寝息を立て続けている。その様子を見たユエルは息を吸い、大きな声を出してコハクを本気で起こそうと試みた。

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